米朝首脳会談で高まる「軍事衝突」の可能性

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第1回

矢部武
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 史上最低の大統領と言われ、問題発言・問題行動を連発しているトランプ大統領。2016年の大統領選にロシアが介入した「ロシア疑惑」を捜査していたFBIのコミー長官が不当解雇されたが、この「司法妨害」問題を調査しているモラー特別検察官の追及によっては、トランプは窮地に追い込まれるかもしれない。となると、11月の中間選挙を控える与党・共和党議員はトランプから離反し、連邦議会でニクソン以来の大統領弾劾・辞任劇が繰り広げられる可能性が出てくる。

 そこで、最新著作『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』(集英社新書)で大統領選以降の全米各地の反トランプ運動をつぶさに描き出したジャーナリストの矢部武氏に、米国最新ニュースを解説してもらいながら「トランプ弾劾・解任」の可能性を探っていく。

 第1回は、先日、突然発表された「米朝首脳会談」。これによって、米朝の軋轢は解決…に向かうどころか、むしろ危機的状況になるというレポートだ!

 

 まさに急転直下の展開である。
 3月8日夜、ホワイトハウスのプレスルームは驚きに包まれたという。まずは秘密を話したくてたまらないという表情をしたトランプ大統領が現れ、「重大な問題で大きな発表がある」と記者団に告げた。それから韓国の高官が、「トランプ大統領が北朝鮮の金正恩委員長からの要請を受け入れ、5月までに米朝首脳会談に応じる意向を示した」と発表した。

米朝首脳会談について記者に語るトランプ大統領。(写真提供 ユニフォトプレス)

 

 韓国側の説明によれば、金委員長は非核化に取り組む考えを表明し、核実験や弾道ミサイル発射の凍結を約束したという。
 何カ月もの間、「“ロケットマン”は自身と自らの体制にとって自滅への道を突き進んでいる」(トランプ)「米国の“老いぼれ”の狂人を必ず火で罰する」(金正恩)などと互いに罵り合い、軍事衝突に向かってまっしぐらかと思われた矢先での出来事だ。
 ひとまず数カ月間は戦争のリスクが回避されることになったのは喜ばしいことだが、一方でこれは米国にとって大きなギャンブルであることは間違いない。
 

 北朝鮮は過去に、クリントン政権とブッシュ(子)政権の時に交わした非核化に向けた米朝合意を一方的に破った。そして核実験や弾道ミサイル発射を繰り返し、技術的に大きな進歩を遂げた。現在は米国の東海岸に到達可能な、核弾頭を搭載した弾道ミサイルを発射できる能力を手にする寸前にあると言われ、当時よりずっと強い立場にある。そんな時に北朝鮮が米国との首脳会談を求める狙いは何か。米国に核保有国として認めてもらい、その上で体制を保証してもらうことではないか。
 

 ここで重要なポイントは、北朝鮮は「対話が続く間は核実験・ミサイル実験は行わない」とし、非核化に取り組む考えを示したが、「核兵器を放棄する」とは明言していないことだ。一方、トランプ大統領は北朝鮮の完全な非核化、つまり核兵器の放棄を求めており、ここに「認識のギャップ」があるように思われる。
 ブッシュ(子)政権で国務次官を務め、現在ハーバード大学ケネディ行政大学院教授のニコラス・バーンズ氏は3月9日、CBSニュースの番組でこう話した。
「おそらく北朝鮮は核関連施設への査察受け入れを含め、それなりに透明性を示すだろうが、核兵器は絶対放棄しないと思う。そこで交渉は非常に難しくなる。これは米国にとって大きなギャンブルとなるだろう」

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プロフィール

矢部武

1954年、埼玉県生まれ。ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号を取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。

主な著書に『アメリカ病』(新潮新書)『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)などがある。

 
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