米朝首脳会談で高まる「軍事衝突」の可能性

米国ニュース解説「トランプ弾劾・解任への道」第1回
矢部武

 米朝会談発表の2日後、トランプ大統領はペンシルベニア州の連邦下院補欠選挙の応援演説で、「北朝鮮問題で大きな勝利を収めた。過去の大統領ができなかったことを成し遂げた」と、うれしそうに話した。
「金委員長がトランプ大統領に会いたいと発表しました。オバマ大統領にはできなかったことです。ブッシュ氏もクリントン氏もできなかったでしょう。彼らがやったのはくだらないことばかりでした」(2018年3月11日、ABC“ジスウィーク”)

 この大言壮語ぶりはトランプ氏が抱えているとされる「自己愛性人格障害」の特徴である、誇大妄想症や過剰な賞賛欲求などにぴったり当てはまるように思える。トランプ氏は「~を成し遂げた」と言っているが、現実にはまだ何も始まっていない。
 オバマ政権で国家安全保障担当副補佐官を務めたベン・ローズ氏は前出の番組に出演し、こう語った。
「私たちは皆、北朝鮮の外交交渉の成功を応援するべきです。数分で数十万人の命が失われる事態を回避するためにも外交解決の道を探るのは正しいことです。問題はトランプ大統領に外交に成功する資質が備わっているか、準備があるかということです。大統領は成功を宣言していますが、まだ何も起きていません」

 ローズ氏は北朝鮮の核開発のような非常に複雑な問題を交渉するには外交官の力が不可欠だとして、チームを作り、戦略を立て、目標を定めるべきだと提案。その上で、こう釘をさした。
「1回の首脳会談で、北朝鮮がすべての核兵器とミサイル運搬能力の放棄に合意するとは誰も思っていません。ですから、きちんと準備する時間を取る方がよいでしょう。外交は歓迎すべきですが、正しく行わなければなりません。なぜなら、1回の会談に手持ちのチップを全て賭けて失敗したら、紛争のリスクは逆に高まります」

 しかし、外交交渉を始める前から、「大きな勝利を収めた」などと舞い上がっているトランプ大統領にそのような認識や覚悟があるとは思えない。米国だけでなく同盟国の韓国や日本の運命も、この「精神的な問題」を抱えた大統領にかかっているということを、私たち日本人は認識しなければならない。

 本稿を書き上げた直後、トランプ大統領がティラーソン国務長官を解任し、マイク・ポンペオCIA長官を後任に充てるとのニュースが飛び込んできた。国際協調路線を掲げ、北朝鮮問題でも外交的解決に積極的だったティラーソン氏を更迭し、自分と似た考えを持つ強硬派のポンペオ氏を後任に据えたことで、北朝鮮との「軍事衝突」の可能性がより高まったと言えるかもしれない。
  

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プロフィール

矢部武

矢部武(やべ たけし)

1954、埼玉県生まれ。国際ジャーナリスト。70年代半ばに渡米し、アームストロング大学で修士号取得。帰国後、ロサンゼルス・タイムズ東京支局記者を経てフリーに。銃社会、人種差別、麻薬など米深部に潜むテーマを描く一方、教育・社会問題などを比較文化的に分析。主な著書に『アメリカ白人が少数派になる日』(かもがわ出版)『大統領を裁く国 アメリカ トランプと米国民主主義の闘い』『携帯電磁波の人体影響』(集英社新書)、『アメリカ病』(新潮新書)、『人種差別の帝国』(光文社)『大麻解禁の真実』(宝島社)、『日本より幸せなアメリカの下流老人』(朝日新書)。

 

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