ホンダ、ヤマハは復活できるか、ライダー&リーダーを直撃!

2024年プレシーズン セパン・テストレポート
西村章

 いよいよ今季のMotoGPがスタートした。毎年恒例、マレーシアでのプレシーズンテストが行われたのだ。早速現地で、新しい体制を迎えたライダーやチーム首脳陣を直撃。特に、昨年低迷した日本メーカーのホンダ、ヤマハは何をどう変えたのか、徹底的に聞き出してきた。

 2024年、年明け最初のプレシーズンテストが、マレーシア・セパンインターナショナルサーキットで行われた。2月1日から3日までは、各メーカーのテストライダーおよび今年から最高峰クラスへ昇格するルーキー選手、そしてコンセッション(優遇措置)適用メーカーのチームと選手も参加するシェイクダウンテスト。2日間のインターバルを置いて6日から8日までは今シーズンのMotoGPに参戦するレギュラー選手全員を対象とした公式テスト、というスケジュールだ。

 2023年を振り返ると、日本メーカーのホンダとヤマハは歴史的な成績低迷に苦しみ、辛酸を舐めるシーズンになった。ホンダはメーカー順位で見れば参戦全5メーカー中の最下位で、ファクトリーチームのRepsol Honda Teamは全11チーム中9位。また、ヤマハはサテライトチームが他メーカーへ去ってファクトリーだけの1チーム2台態勢になり、2003年以来のシーズン0勝という成績だった。その結果、両メーカーともに、欧州メーカーよりも開発機会で様々に優遇されるコンセッション対象陣営となり、いわば〈ゲタ〉を履かされた状態で新たなシーズンを戦うことになった。その〈ゲタ〉のひとつが、欧州陣営よりも多いテスト日数が与えられるシェイクダウンテストへの参加、という措置だ。

 現在のMotoGPは、2年連続で3冠(ライダー、チーム、コンストラクター)を達成したドゥカティが圧倒的な強さを見せつけている。そして、同じくイタリア企業のアプリリアとオーストリアメーカーのKTMが続く。ホンダとヤマハは、この3メーカーの背中も見えないほど大きく引き離されているのが現状だ。

 かつてホンダは、最強チャンピオンと最強マシンの組み合わせで無敵艦隊とも呼ばれた時代があった。ヤマハはスーパースターのバレンティーノ・ロッシを擁して華やかな快進撃を続け、世界中どこでも大人気で常に大きな注目を集めた。そんな両陣営が、昨シーズンはかつての栄華が見る影もないほどの成績で1年を終えた。ホンダ最強時代を支えてきたマルク・マルケスが、「もっと欧州的なアプローチを取り入れてほしい」とリクエストを続けたものの、最後は陣営を去ってドゥカティのサテライトチームへ移ったことは、日欧の勢力関係がもはや大きく様変わりしていることを象徴的に示す出来事だった。

 今回のセパンテストでもやはり、そのパワーバランスが如実に反映される結果になった。3日間の公式テストを終えて最速タイムを記録したのは、ペコの愛称でも知られる現在2連覇中の王者フランチェスコ・バニャイア(Ducati Lenovo Team)。テスト3日午前にタイムアタックを実施して、自身が持つオールタイムラップレコード(1分57秒491:2023マレーシアGP予選Q2)を大きく上回る1分56秒682をたたき出した。

テスト初日と2日目はバイクをじっくりと仕上げ、最終日のタイムアタックでしっかりトップタイムを記録するあたり、バニャイアはさすが王者の貫禄、というべきか

 2番手は、昨年最終戦までパニャイアとタイトル争いを続けたホルヘ・マルティン(Prima Pramac Racing)の1分56秒854。3番手がバニャイアのチームメイト、ドゥカティファクトリーで2年目を迎えるエネア・バスティアニーニで1分56秒915。4番手には、M・マルケスの弟で同じチームのGresini Racing MotoGPに所属するアレックス・マルケス。こちらのタイムは1分56秒936だ。

 史上初の1分56秒台に入ったこの4名はいずれもドゥカティ勢で、5番手のアプリリア勢アレイシ・エスパルガロ(Aprilia Racing)は1分57秒091。57秒の壁を越えることこそならなかったものの、充分に速さを発揮しているといえるタイムだ。6番手にはドゥカティ移籍初年度のマルク・マルケス(Gresini Racing)、7番手にKTMファクトリーのブラッド・ビンダー(Red Bull KTM Factory Racing)が続く。

「本能に任せて攻めるタイムアタックではまだホンダ時代のクセが出る」というマルケスだが、ライバル選手たちはチャンピオン候補の一角として警戒を隠さない

 アタックラップの一発タイムだけで選手やバイクの実力をすべて推し量れるわけでは、もちろんない。チャンピオンのバニャイアは3日間の走行を終えて、「トップタイムだったのはうれしいけれども、一発タイムで速いラップを記録するよりも、高い水準で安定したレースラップを刻むことのほうが重要」と落ち着いた口調で述べたが、その彼の言葉にプレシーズンテストの意義がよく表れている。

 さて、日本メーカーである。捲土重来を期す彼らは、このテストではたしてどのあたりの順位につけていたのか、とタイムシートを上から探していくと、ホンダファクトリーのジョアン・ミル(Repsol Honda Team)が1分57秒374で総合10番手、11番手がヤマハファクトリーのファビオ・クアルタラロ(Monster Energy Yamaha MotoGP)で、ベストタイムは1分57秒525だった。

2024年は契約更新の年を迎えるクアルタラロ。「才能を存分に発揮してもらえるマシンを作る以外に更新の方法はない」とヤマハ首脳も背水の陣で臨む
「絶賛仕事中」と漢字入りのヘルメットで気合い充分のテストを続けたミル。「今年は自分のレース人生にとって最も重要な年」とチーム発表会で言明した
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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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