8耐3連覇もMotoGPは断トツ最下位。その落差をホンダ2輪トップに質す!

西村章

「8耐」こと鈴鹿8時間耐久ロードレースは、やはり日本最大のバイクレースだ。灼熱の炎天下、8時間という長丁場では様々な波瀾万丈のドラマが発生する。午前11時半にスタートし、極限に近い環境で高負荷に晒され続けてもミスひとつ犯さず、トラブルも発生させないチームとライダーのみが、夕闇が周囲を押し包む19時半に誰よりも早くチェッカーフラッグを受け、勝利の座につくことができる。

 日本の夏が年々苛酷になり続けるなか、酷暑の2024年第45回大会でその栄光に浴したのは、ホンダファクトリーチームのTeam HRC with Japan Post(高橋巧/ヨハン・ザルコ/名越哲平)。8耐新記録となる220周を走行したホンダファクトリーは2022年から3年連続の優勝で、なかでも高橋は今回の勝利により前人未踏の8耐6勝目を達成した。また、今回の勝利はホンダにとって8耐30勝目という記念すべき節目にもなった。

レース最終盤にはピット作業のミスでペナルティを通告されたが、それでも2位のYART-YAMAHAに充分なマージンを築いていた。3位はYoshimura SERT Motul

 バイクの優れた信頼性と耐久性、それを作り上げる技術力、ピット作業で些細なミスひとつ犯さないメカニックたちの熟練とチームワーク、そして、最後まで高水準のペースを維持して走りきるライダー3名の肉体的精神的に卓越した能力。これらの難しい条件をすべてクリアして達成した彼らの偉業は、素直に賞賛に値する。

 鈴鹿8耐は、ホンダにとってMotoGPと並び最重要なレースと位置づけられている。絶対に勝たなければならない、いわば「使命」のようなものだ。その使命を完遂するために、彼らは1年間かけて潤沢な予算と人材を注ぎ込んで周到な準備を重ね、戦闘力の高いバイクとチーム体制を整えて優勝を狙いに来る。そんな戦い方に対しては、昔からライバル陣営は様々に批判をしてきた。しかし、そんな大人げのなさ全開でムキになって勝ちに来る姿勢が今も健在であることは、一方の最重要レースであるMotoGPが悲惨極まりない状態(後述)である現在、ホンダはやはりホンダであることを強く感じさせる。

 決勝レースを翌日に控えた土曜午後、ホンダレーシング(HRC)で二輪部門の活動全体を率いる取締役二輪レース部長石川譲氏に様々な話を聞いたが、その際に石川氏は、

「もちろん、我々は勝ちを狙って今まで準備を進めてきましたし、今週末の走行でも決勝を睨んだことをずっとやっています。そういう意味では、ここまで順調に進んできた手応えはあります。ただ、8耐では何が起こるかわからないので、明日の決勝レースでは臨機応変に対応していくことになると思います。でも、例年と同じですよね。当然、自信はあります」

 と述べていた。

1993年、本田技研工業株式会社入社。2002~05年にRC211V車体設計プロジェクトリーダー。その後、CBR1000RR-Rのラージプロジェクトリーダーなどを経て、2023年4月にHRC取締役二輪レース部長に就任。

 現在のHRCは周知のとおり四輪と二輪のモータースポーツ活動すべてを統括する組織で、企業全体の取締役社長は昨年の当欄でインタビューした渡辺康治氏だが、二輪の活動を束ねているのはこの石川氏だ。つまり、二輪レース部長という役職は、HRCが2年前までの二輪レース活動に特化した企業であった時代なら社長に相当するポジション、ということになる。その地位にいる人物が「自信はあります」と明言するのだから、これが軽々なリップサービスでないのは明らかで、その言葉の背後には、かつて「憎たらしいほど強い」とライバル陣営に言わしめた圧倒的な風格が透けて見えるようでもあった。それはじっさいに一昨年と昨年の2連勝という実績、そして8耐の歴史で29回の勝利を積み重ねてきた自信に裏打ちされているからでもあるのだろう。

「それだけの自信があるのは、今までの蓄積があるからですよね」

 重ねて訊ねると、「そうです」と即答が戻ってきた。

 ホンダが8耐の歴史で圧倒的な強さを見せてきたのはこの〈蓄積〉、つまり長い歴史で様々に変遷してきた競技規則に対応する開発技術でも、そしてそれを支える人的資源でも〈熟成〉を重ねてきたからだ、と言い換えてもいい。だからこそホンダは、鈴鹿8耐と同様に、2ストローク500cc時代を経て4ストローク時代に切り替わった世界グランプリでも圧倒的な強さで他を圧することができていたのだろう。

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プロフィール

西村章

西村章(にしむら あきら)

1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。

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