ウーマン村本が日本人に突きつけるもの〈後編〉

沖縄在住ノンフィクションライターの極私的村本論
渡瀬夏彦

 前編でも書いたように1月3日の午後、30分の予定の記者会見を延長し、50分以上かけて丁寧に心情を語った村本大輔である。夜8時からの桜坂劇場でのソロ公演「大演説」がますます楽しみになった。

 それまで少し時間の余裕があったので、わたしは「よしもと沖縄花月」の初笑いチケットを入手し、「笑い初め」に勤しむことにしていた。

 記者会見の最後、その旨を村本大輔に告げたとき、「基地問題とかはやらないかもしれないですよ」との返答があったが、たしかに初笑いに相応しく(?)比較的あっさりとしたネタであった。複数のお笑いコンビやピンの芸人の顔見世興行的な意味合いのある「初笑い」。個人的には、沖縄出身のコンビ「スリムクラブ」のまったりとした笑いに初めて生で接することもできて楽しかった。彼らは漫才の最中に、最前列の女性客に今日は誰を目当てに来たのかと問い、「ウーマンラッシュアワー!」と返ってきた見事な答えに寂しい顔をする、という自虐リアクション披露の場面もあって、これまた大笑いであった。

1月3日を皮切りに、3月、6月の独演会も大人気だった。(写真/渡瀬夏彦)

 閑話休題。

 その夜、桜坂劇場の「ホールA」は立ち見も出る超満員だった。

 村本大輔は、まずそのことを笑いのネタにした。

「この公演のチケット、席の半分ぐらいしか売れてなかったのに、「THE MANZAI」を見てくれた方が一気に買ってくれたわけですよ」

 そして、満員の観衆に向かって、ジャーナリスト堀潤氏との出会いなど、「あのネタ」が出来上がった経緯を丁寧に説明した。そしてこう締めくくった。

「沖縄をネタに使って売名したいだけか、とも言われました。そしたら、THE MANZAIでやったことで、桜坂劇場のチケットが完売したんですよ。はいっ、売名行為成功―っ。よっしゃ!」

 爆笑である。

 その流れの中で、こんなふうに本音を洩らしてもいた。

「皆さん、僕を沖縄の活動家みたいに思わないで。ハードルを上げないで。僕は、自由を求めて、自由に発言したいだけーっ」

 だがそう言いつつ、こんなネタを付け加えることも忘れない。

「この前、米軍機のトラブルがあったときに翁長知事が東京へ行きましたね。安倍首相は翁長さんに会いませんでしたね。でもその日、ダウンタウンの松本人志さんには会いましたね。『ごっつ嫌な感じ』でしたね」

 記者会見でも語っていた通り、彼は、レッテルを貼られそうになると、そのレッテル貼りの手をスルリとすり抜けて別の顔を見せる。そうして己の自由を自ら保ちつづけている。

「売名行為、成功―っ。よっしゃ!」のあと、村本はこう言った。

「芸人というのは、本来、噛みつくもんです。今年はイヌ年ですけど、メディアに噛みつく犬になるか、メディアの首輪した犬になるか!? 今のテレビ、出たいとは思わないです。出たいと思う番組、正直言ってないです。無知なわたしの浅はかな知識ですけどね、(トランプで言うと)キングの上のジョーカーを芸人が演じないといけないと思ってます」

 話は滞りなく進行し、「朝まで生テレビ」で井上達夫東大教授から「無知を恥じなさい」と言われ、若い学者の落合陽一氏からは「小学校から行き直してください」と言われたことへの「反論」を展開した。

「世の中には義務教育を受けられなかった人だっているんですよ。僕は、まったく勉強したくなくて勉強せずに高校中退した人間ですが、自分の無知を恥ずかしいと思っているから、番組の中でも質問するんですよ」

 そしてここで、村本は「今日のテーマを発表したい」と声高らかに述べた。独演会のスタートから30分ほど経っていたころである。

「人間は皆、『本』です。その人の1ページ、1ページがあるんです。テレビに出てる時の僕は、ゲスくてクズだと思っているかもしれません。でもそれは、自分の見たいページだけ見ようとしているんです。じつは昨日の夜、那覇の街を歩いていたら、こんなことがありました…」

 と新たな話題に入っていった。こんな話だった。

 那覇の街を歩いていたら、女性の悲鳴が聞こえてきた。見ると、ヤンキーに絡まれて泣いている若い女の子がいた。村本大輔は「やめろ!」と叫び、事なきを得たという。

 ここで村本は「今日来てるかな?」と客席の後方を見やる素振りを見せ、観衆の視線が一斉に動いた。

「もし来てたら立って」と促す村本の声に客席最後方の女性が立ち、村本は「わぁ、来てくれてたんだ。こっち来て来て」と舞台前へと呼び寄せる。

 女性は従い、村本を舞台の下から見上げる格好で再会する。「今日はいっぱい笑って帰ってね」と村本がいい、次の瞬間、客席に向かって叫んだ。

「2ページ目、皆さん、いかがでしょうかーっ!?」

 女性が席に戻るより早く、拍手喝采となったことは言うまでもない。わたしも、「凄いね」と内心独りごちたものだ。村本は付け加えた。「皆さん、テレビのイメージだけ、ツイッターのイメージだけで、人を判断しちゃいけないんですよ」

 ところが、である。

 約1時間後に、この話題の意外なオチが明かされるのだ。それはもちろん、後述する。

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プロフィール

渡瀬夏彦
ノンフィクションライター。1959年埼玉県生まれ。高校3年のときに「与那国島サトウキビ刈り援農隊」に参加して以来、約28年間沖縄通いを続け、2006年から沖縄県民となる。『銀の夢 オグリキャップに賭けた人々』で講談社ノンフィクション賞とJRA馬事文化賞を受賞。他の著書に『修羅の華 辰吉丈一郎がゆく』(講談社)、共著書に『誰が日本を支配するのか!? 沖縄と国家統合』(マガジンハウス)など。基地問題からスポーツ(琉球ゴールデンキングス、琉球コラソン、FC琉球、高校野球、ボクシング等)、書評まで、幅広いジャンルで雑誌、新聞等にドキュメントやコラムを執筆。関心は、脱基地、脱原発から、沖縄文化、自然、芸術・芸能・音楽、スポーツまで多岐にわたり、Facebook やTwitterでも情報発信。現在、沖縄を舞台にした複数のノンフィクション作品を構想、執筆中。「沖縄戦・精神保健研究会」会員。

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