東京五輪聖火リレーのために一部避難指示解除?

福島県双葉町 復興の欺瞞を撃つ!

日野行介(ひの・こうすけ)
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 東京電力福島第1原発事故からもうすぐ9年。被災自治体で唯一、今も全員避難が続く福島県双葉町が来年(2020年)春での一部避難指示解除に向けて動き始めている。汚染がひどい同町は96%が帰還困難区域。太平洋岸にある残り4%と双葉駅周辺を解除する予定だが、実際に戻って住むのは2年後の2022年春からという不可解な内容だ。

 来年3月にはJR常磐線の全線復旧が予定されていることもあり、「2020年東京五輪の聖火リレーを駅周辺で走らせるための解除ではないか」とささやかれている。11月15日に埼玉県加須市内で開かれた避難指示解除についての町民説明会を取材し、違和感の正体を確かめた。

 取材・撮影・文=日野行介 日野氏ポートレイト撮影=中筋純

 

避難指示解除
結論ありきの住民説明会

 住民説明会は11月、国と町の共催で福島県内外の11カ所で開かれた。事故発生直後の混乱で住民は散り散りとなり、全国各地に避難したためだ。埼玉県加須市は、当時の井戸川克隆町長(73)が被災自治体で唯一、福島県外に役場を移した場所で、廃止された旧県立高校の校舎に14年まで避難所も置かれていた。

 説明会場の市営ホールに入ると、前方に国と県、町の幹部たちの席、後方に町民たちの席が向き合うように置かれており、伊澤史朗町長始めスーツ姿の男女約30人が既に前方の席を埋めていた。一方、三々五々現れ、最終的に50人ほど集まった町民たちは高齢者ばかり。その顔にはいずれも深いしわが年輪のように刻まれており、事故後の長い年月を思わせた。それにしてもメディアが少ない。テレビカメラは1台もなく、記者は5人ほど。避難所の様子が連日中継されていた発生直後とは隔世の感があった。

写真1 避難指示解除について説明する伊澤町長

 入り口で受け取ったパワーポイントの資料を見て、すぐ既視感を覚えた。「双葉町の復興・再生に向けた取組について」と書かれた青い題字に見覚えがあったからだ。14年~16年にかけて相次いだ他の市町村の避難指示解除についての説明会で配られていたものと同じ字面だ。資料作成者として双葉町が先頭に書かれているが、国の資料をベースに使い回しているのだろう。

写真2 説明会の配付資料

 開始時刻の午前10時、伊澤町長が立ち上がって「長期にわたる避難生活、大変お疲れ様です」と挨拶を始めた。時間の多くを割いたのは、既に始まっている産業立地や公共施設の整備の進展についてだった。

 「避難指示解除準備区域内の中野地区復興産業拠点は順調に工事が進み、町の産業交流センターや県の東日本大震災・原子力災害伝承館は整備が進んでおり、来年夏ごろのオープンを見込んでいます」

 「合わせて雇用創出につなげるため拠点内への企業誘致を進めており、11件16社との協定を締結しました。さらに十数社と締結に向けて協議しています」

 「双葉駅橋上化と自由通路工事は常磐線全線開通に合わせて工事が順調に進んでいる」

 「特定復興再生拠点区域は555ヘクタールの全域で除染と建物解体が進んでいる。農地除染は双葉町での営農再開への第一歩。8月には仙台市の舞台ファームと連携協定を締結した」

 「常磐双葉インターチェンジは来年3月の供用に向けて整備が進められている」

 伊澤町長は「皆様の質問や意見に丁寧にお答えし、町政に反映させていきたい」と締めくくった。来年春の解除に向けて工事は着々と進んでいる。外堀どころか内堀まで埋まっているのに、解除の可否を判断するため住民に意見を求める姿勢なのだろうか。

 続いて伊澤町長の左に座る原子力災害現地対策本部の由良英雄副本部長が立ち上がり、「大震災から8年半あまりにわたり多大なるご迷惑とご心配をおかけしていることに改めておわびを申し上げます」と切り出した。

 「ご迷惑とご心配」は東電の決まり文句だ。事故の被害を深刻にとらえていないようにも受け取れ、被災者の間で評判が悪い。それにしても、事故の法的責任はすべて東電が負うとされ、それを支援するのが国の立場だ。それが東電と同じ決まり文句を口にしている。どう考えたら良いか分からず、頭の中が混乱した。

 

96%は事故後約6年が過ぎても
20ミリシーベルトを下回らなかった「帰還困難区域」

 ここで町内の行政上の区分や解除後の青写真について簡単に説明しておきたい。

 避難指示区域は年間積算線量によって3区分される。最も低い「避難指示解除準備区域」は町域のわずか4%。町北東部の太平洋岸にあり、町を南北に貫く大動脈である国道6号やJR常磐線に接していない。

*地図 作成/クリエイティブメッセンジャー

 一方、残る96%は事故後約6年が過ぎても20ミリシーベルトを下回らなかった「帰還困難区域」だ。現在も鉄柵(バリケード)で囲われており、一時立ち入りには手続きが必要だ。また同区域のうち原発隣接地では、環境省が除染で発生した汚染土などを搬入し、最長30年間にわたって保管する中間貯蔵施設を建設している。

 避難指示解除準備区域内では現在、町が産業団地を整備している。来年3月までに現在休止中の浪江―富岡駅間も含めてJR常磐線が全線復旧し、双葉駅や線路沿い、避難指示解除準備区域までのアクセス道路も合わせて解除する予定だが、それでもわずか4%では戻って生活するのは難しい。そのため帰還困難区域のうち駅周辺の約555ヘクタールを「特定復興再生拠点区域」(復興拠点)として、市街地や農地を整備するため、建物解体や除染を進めている。今回の説明会で、国と町は来年春の解除に合わせて、復興拠点全域のバリケードを撤去し、手続きなく自由に立ち入りできる「規制緩和」も提案した。この復興拠点の解除が予定される2022年春に両地域を合わせて居住再開するのが町のプランだった。

 説明会のやりとりに話を戻したい。行政側の説明が1時間ほど続いた後、質疑応答に移った。

 最初の質問は、復興拠点内の営農再開と拠点外の除染の見通しについてだった。答えたのは伊澤町長だ。

 「水田をしっかり元通りにして耕作してもらうのが目標だが、担い手がいるかと言えば、意向調査をかけると、戻って農業を再開するという方は少なく厳しい状況です。しかし田んぼを作らないと除染しても意味がない。最悪の場合、舞台ファームが田植えから稲刈り、米の販売までやります。拠点外の除染ですが、今こうすると断言できる状況にない。どう拠点外に広げていくか国と話しているところで、将来的にはそうしたところも除染しながら帰還できる取り組みをしていきたいと町では考えています」

 厳しい見通しを率直に答えたように見えた。だからだろうか、農業と除染に関する質問がその後出ることはなかった。

 続いて、会場の後方に座る初老の男性が質問に立った。

 「復興を進めることに異存はないが、今行われている燃料の取り出し作業で事故が起きたら放射能が拡散する。対処する方法はあるのでしょうか」

 これに対して、国の担当者たちは万全の備えを強調した。

 「落下しないよう二重に装置、防止機能がついています。臨界が起きた場合の措置として、ホウ酸水を注入できる装置もつけています。廃炉は安全を大前提に東京電力がやっています」(内閣府廃炉・汚染水対策現地事務所の木野正登参事官)
 「万が一の事態が起きた場合には、福島県で広域避難計画を策定しており、避難先を定めています。人命を最優先に住民避難に取り組むのが政府の考えです」(内閣府原子力被災者生活支援チームの宮部勝弘支援調整官)

 彼らの立場上、他に言いようがないとは思うが、説得力はゼロだ。双葉の人々は長い間、「原発は安全だ」と繰り返されてきた。しかし事故は起き、混乱の中で散り散りになって避難した。

 男性はいらだちをあらわにした。

 「今回の事故だってありえないって言われていたでしょ。確率が低くとも起こる可能性があるってことで、起きたらお手上げだと認識しましたが、間違いですか?」

 木野参事官は「ホウ酸水」に加えて、電源車や注水車も配備していることを説明し、理解を求めた。最後に「それでも想定外が起こると言われればそれまでですけど」と付け加えたのは、理解されないことを分かっているからだろうか。

 

被害者が加害者から
さらなる忍従を強いられる矛盾

 伊澤町長と正面から向き合う最前列の中央には井戸川前町長が一人で座っていた。

 双葉町は事故後ずっと、矛盾に満ちた「復興」に振り回され続けてきた。井戸川前町長は被災市町村で唯一、福島県外に役場を避難させ、正面から為政者と対峙してきた。

 政府は被ばく対策として避難ではなく除染を中心に据えた。そして福島県内の除染で発生した汚染土を保管する中間貯蔵施設を受け入れるよう双葉町に求めてきた。

 「汚染者負担の原則を守れ、東電の責任で処分しろ」
 「双葉が放射能ごみを引き受ける理由はない」
 「中間貯蔵施設を受け入れれば、将来にわたって双葉に住めなくなる」

 被害者が加害者からさらなる忍従を強いられる矛盾は明らかだ。井戸川前町長は正論を盾に抵抗を続けた。しかし、この国の地方自治は、国や県にお願いしなければ何一つ動かず、すぐ立ち往生してしまう。徹底抗戦は井戸川前町長自身の首を絞めた。足元の町議会が12年12月、「双葉町だけが復興から取り残される」として町長の不信任決議を可決。井戸川前町長は翌年2月、辞職を余儀なくされる。その当時、町議だったのが現在の伊澤町長だ。
 それでも井戸川前町長は闘い続けた。東電と国に対して損害賠償訴訟を起こしたほか、加須に導いた町民の一部と団体を結成し、毎月の会合を続けている。

 

なぜ居住を認めないのに
避難指示解除ができるのか?

 続いて質問に立ったのは、井戸川前町長と行動を共にする元町幹部の男性(73)だった。配付資料の文言から行政の姿勢に切り込んだ。

 国はこれまで、
①年間積算線量が20ミリシーベルト以下であること
②日常生活に必要なインフラの復旧と除染の十分な進捗
③自治体、住民との十分な協議
の3要件を満たさなければ解除しないとしてきた。ところが、この日の配付資料では③から「十分な」が抜けていた。

 男性は「今日の説明をもって住民との協議を済ませるのか?」と問いただした。資料の書きぶりから、形ばかり町民の意見を聞いて一方的に解除を決める姿勢ではないかと疑ったのだ。 既に解除した他の市町村でもそうだったが、早期解除を求める避難者はほとんどおらず、反対が圧倒的に多い。それはそうだろう。避難中は減免されてきた医療費や税金などの負担が戻る一方、荒廃しきった地域では元通りの暮らしなど望むべくもない。除染しても汚染が消えたわけではないし、広大な山林は手つかずのままだ。それでも行政側は押し切ってきた。

 男性は追及を続けた。国が2015年に公表した文書を基に、「避難指示は居住の自由を制限する措置のはず。なぜ居住を認めないのに解除ができるのか?」と尋ねた。この発言を聞き、当時のことを思い出した。

 頑強に抵抗する避難者たちに対して、国の担当者は「憲法で保障される居住の権利を守るために解除させてほしい」という奇妙な理屈を展開した。それを思うと、来年春に解除しても居住はその2年後という今回のやり方がいかに不可解か分かるだろう。

 また、これまでに解除した市町村では、元の役場で前もってある程度の業務を始めており、準備宿泊などの順を踏んで進めてきた。しかし双葉町役場は帰還困難区域内にあり、再開の見通しも立っていない。そもそも町の担当者の説明では、来年春の帰還を望む町民はいないのだという。いったい何のために来春解除しなければならないのか、ますます分からない。

 避難者たちの間では「東京五輪の聖火リレーのために急いでいるのだ」とささやかれていた。今年6月に発表されたルート概要では、福島県内のリレーは来年3月26~28日の3日間。Jヴィレッジ(楢葉、広野両町)をスタートし、原発事故の被災地である浜通り地域を北上。全町避難が続く双葉町を除き、原発事故による避難指示が出た11市町村を全て通る予定になっている。ただし、双葉町については来春の解除が決まればルートに加える方向で検討しているという。最終ルートは今月発表される予定で、11月の説明会は解除の見通しを示すうえでギリギリの日程となる。

 やはりと言うべきだろうか。解除の本質を問う男性の質問に対して満足な回答はなかった。

 「こちらだけでの判断ということではなくて、今回は県内11カ所でやっていますので、11カ所全部で説明させてもらい、その後議会に報告し、総合的に判断したい」(伊澤町長)
 「解除されれば、居住は可能になります。一方で今回は町の方針として、帰還は令和4年(2022年)の春ごろということで聞いております」(宮部支援調整官)

 勘違いか意図的かは不明だが、明らかに質問と答えがかみ合っていない。それでも男性は「まだ他の人もいるだろうから、別途質問する」と言って、質問を終えた。少し諦めた様子にも見えた。

 

汚染土、30年後県外処分は
ほとんど誰も信じていない

 続いて発言したのは井戸川前町長だった。
 「この計画書には町民の復興、再生が書かれていない。国はこれまで地元の意見なんか聞かず、欠席裁判で勝手に決めてきた。そもそも事故前に福島県が出した文書では、避難指示解除の要件は『事故が沈静化し、発電所からの放射性物質の放出が止まり』と書いてある。放射能が出続けているのに、なぜ解除できるのか。こんな偽装をしてはいけない。避難指示解除なんて本末転倒も甚だしい。町民の抱えている不満を解消してからにしなさい」

写真3(図4)正面から向かい合う伊澤町長(左)と井戸川前町長

 その直後、終了予定時刻の正午を告げる鐘の音がホールに鳴り響いた。司会をしている双葉町の課長が「もうそろそろ時間なので次を最後の質問にします」と通告した。

 最初に農地除染について質問した男性が再び手を挙げた。

 「先日、小泉(進次郎)環境大臣が中間貯蔵施設の汚染土を30年後に引き上げるような話をしていましたけれど、国としてはどのような……。本当に持ち出すんですか?」

 それを聞いた後ろの席の男性たちが手を横に振って、「ない、ない」と小声でつぶやき合うのを見かけた。30年後の県外最終処分など、ほとんど誰も信じていないのだ。

 由良副本部長が答えた国の公式見解は、懸念を払拭するどころか、むしろ確信させるに十分なものだった。

 「県外での最終処分については措置を講じていくと法律上うたわれているところで、小泉大臣の発言はこれに基づき、国として取り組みをしっかり進めていくというものだと思っています」

 


福島、中間貯蔵施設ルポ
異常な公共事業の実態———井戸川前町長に同行取材
https://shinsho-plus.shueisha.co.jp/news/5570

プロフィール

日野行介(ひの・こうすけ)

1975年生まれ。毎日新聞記者。九州大学法学部卒。福島県民健康管理調査の「秘密会」問題や復興庁参事官による「暴言ツイッター」等多くの特報に関わる。 著書に『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』(集英社新書)『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』『福島原発事故 被災者支援政策の欺瞞』(いずれも岩波新書)、『原発棄民 フクシマ5年後の真実』(毎日新聞出版)、『フクシマ6年後 消されゆく被害――歪められたチェルノブイリ・データ』(人文書院)等。

『除染と国家 21世紀最悪の公共事業』

 
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