『未来への大分岐』トークイベント 民主主義の分岐点

斎藤幸平(経済思想家)×後藤正文 (ASIAN KUNG-FU GENERATION)
斎藤幸平 × 後藤正文

■日本の左翼は格好悪い?

斎藤 同じことは社会運動や労働運動にも言えて、ちょっと左翼の話になりますけど、左翼って格好悪いんですよ。デモの行くと、説教臭いおじさんたちが「憲法9条守れ」とか「平和が大切だ」とか言っているでしょう。

後藤 よくありますね。

斎藤 大切なことを訴えるのはもちろん重要ですが、運動を大勢の人たちに広げていかなきゃいけないときには、イメージを変えないといけない。楽しくて格好よくて、そこに行けば色んな人に会える、ある種のフェスみたいな感じにしないと新しい若い人は集まらない。そういう意味ではSEALDsは若い世代の人たちが自分たちのやり方で、自分たちの言葉で立ち上げた運動だったと思います。

後藤 わかります。僕も初めて沖縄の辺野古に行ったとき、少し驚いたんです。こう言うと失礼ですけど、何の仕事をしているのかわからない感じの、すごく地味なおじさんやおばさんたちがテントを張って反対運動をしていた。正直、そのときは入って行きづらいなという印象を受けました。

 でも、いまから思うと、それは僕たちがそういう人たちだけに運動を押しつけてきたというか、僕たちがデモに行かないから、そういう人たちとの間に距離を感じるようになっただけだと思うんです。SEALDsを見ていて、そう思ったんですよ。SEALDsが革新的なのは、本当に普通の若者なんですよね。たぶん僕が大学生のときと、普段の生活は変わらないはずです。だから、普通の人たちが普通にデモに参加する社会にしなきゃダメだと思いますね。

斎藤 いまそういう普通の人たちは、安倍政権に批判的だったとしても左翼の集まりに行かず、立憲民主党のところに行っているのかもしれない。でも、世界を覆っている矛盾は根が深く、現代のライフスタイルを抜本的に変えるとか、それぐらいのことをしなければならないし、気候変動など人類の危機まで引き起こしている資本主義にもNOといわなくちゃいけない。今の立憲民主党のようなリベラルなやりかたは、むしろ本質的な矛盾を隠すことにしかならない。そういうことを暴けるのは左翼のはずなのに、その左翼が日本ではすごく弱いんです。

後藤 ただ、その場合は「左翼とは何か」ということをもっと説明したほうがいいんじゃないですかね。左翼というと、ゲバ棒を持って突撃してくる人たちみたいなイメージを持っている人が多いと思います。革命を起こしたいわけじゃないんだってことを説明しないと。

斎藤 いや、革命は起こしたいんです。社会のシステムを大きく変革しないなら、いまの社会を維持したいってことになりますから。

 グレタ・トゥーンベリさんが求めているのも革命です。私は彼女のことを革命家だと思っていますが、このまま気候変動を放置すれば、世界は大変なことになってしまう。残された時間はわずかしかない。カルロス・ゴーンのような1%の超富裕層なら、彼は日本からも逃げたわけですから、気候変動からも逃げられるかもしれない。けれども、私たちは逃げられない。だから革命を起こさなきゃならないんです。

後藤 これは言葉に貼りついているイメージの問題かもしれないけど、革命というとやっぱり怖いんですよ。「内戦でもするんですか」、「斎藤さん、家に帰ったら爆弾でも作っているんじゃないか」みたいな。

 斎藤さんには学者としてラディカルな構想とか考えがあると思いますが、それを僕も含めて一般の人たちに伝えるときは、それなりの言い換えが必要なのかなと思います。

斎藤 後藤さんの中にある左翼のイメージは、全共闘とか、新左翼運動ですよね。

後藤 そうですね。

斎藤 そういうイメージだと、グレタ・トゥーンベリたちの「未来のための金曜日」なんかはうまくとらえられないと思います。日本では左翼というと50年以上前の学生運動までさかのぼらないと参照軸がないんですけど、日本の68年は世界的にみても最も失敗して、むしろ保守化して反動化した。

 他の国は違います。68年以降、エコロジーやジェンダー、そして人種差別をめぐる新しい社会運動が出てきた。そして今日でも、オキュパイ運動、ブラックライブスマター、未来のための金曜日などの形で継続している。

 これらの運動は、いままで当たり前だと思っていたこと、絶対に変えられないと思っていたことを変えようとしている、その意味で、革命です。そして、それは日常の生活の延長上にあるものです。そうした革命のイメージと、日本の革命のイメージには大きな差がある。そのイメージを変えていかなきゃいけないと思います。

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プロフィール

斎藤幸平 × 後藤正文
 
 
 
斎藤 幸平 (さいとう・こうへい)

1987年生まれ。経済思想家。大阪市立大学大学院経済学研究科准教授。ベルリン・フンボルト大学哲学科博士課程修了。博士(哲学)。専門は経済思想。Karl Marx’s Ecosocialism: Capital, Nature, and the Unfinished Critique of Political Economy (邦訳『大洪水の前に』)によって、ドイッチャー記念賞を日本人初、歴代最年少で受賞。
マルクス・ガブリエル、マイケル・ハート、ポール・メイソンとの対談をまとめた『未来への大分岐』(集英社新書)は、5万部をこえるベストセラーに。

 

後藤 正文(ごとう・まさふみ)
1976年静岡県生まれ。ロックバンド・ASIAN KUNG-FU GENERATION のボーカル&ギターを担当し、ほとんどの楽曲の作詞・作曲を手がける。ソロでは「Gotch」名義で活動。また、新しい時代とこれからの社会を考える新聞『THE FUTURE TIMES』の編集長を務める。レーベル「only in dreams」主宰。著書に『何度でもオールライトと歌え』『凍った脳みそ』(ミシマ社)、『YOROZU 妄想の民俗史』(ロッキング・オン)、『ゴッチ語録 決定版』(ちくま文庫)など。

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