データで読む高校野球 2022 第6回

山田陽翔を攻略をした大阪桐蔭の「リベンジ」とコロナ禍のセンバツの課題

ゴジキ

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに感情論や印象論で語られがちである。そんな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。全6回にわたって、「春の甲子園」こと選抜高等学校野球大会(以下 センバツ)について様々な側面から分析していく。

第6回目は、3月31日(水)におこなわれた、近江 対 大阪桐蔭によるセンバツの決勝と、今大会で見られた不思議な傾向を解説する。

 

昨年夏の甲子園と同カードの決勝戦

3月31日(木)に開催されたセンバツの決勝、近江 対 大阪桐蔭は奇しくも昨年夏の甲子園2回戦と同カードになった。昨年夏は近江に軍配が上がったが、今年の春は大阪桐蔭が高校野球トップクラスの圧倒的な実力をみせつける結果になった。

 

近江の先発、山田陽翔は今大会初めて4番ではなく9番ピッチャーとして出場。この打順変更からは、山田を早めに降板させるつもりだったことがうかがえる。準決勝まで全試合完投し、昨日の準決勝でデットボールを受けて足に不安が残る山田は、明らかにベストなコンディションではなかった。

そんな山田を、大阪桐蔭は1回表から打ちこむ。1番の伊藤櫂人が近江のショート横田の失策で出塁すると、すかさず2番の谷口勇人がヒットを放ち先制。このタイムリーで大阪桐蔭は今大会のすべての先制点を奪ったことになる。

山田もコンディションが悪いながら、準決勝でホームランを放った3番の松尾汐恩や8打席連続安打記録した4番の丸山一喜など、後続の打者を抑えていたものの、初回だけで球数は21球に到達。大阪桐蔭はただ先制するのみならず、球数も投げさせることで山田を追い込んでいく。

2回に、6番の田井志門が四球で出塁、7番の星子天真が送りバントを決め、9番の前田がタイムリー、という堅実な点の取りかたをしたと思えば、3回には松尾がホームランを放ち山田をノックアウト。あらゆる方法で得点を奪おうとする攻撃戦術が光った。

 

大阪桐蔭打線は近江2番手の星野世那に対しても攻撃の手を緩めず、田井がホームランを放ち、大会新記録のチーム9本塁打を達成。2回戦は不戦勝だったため、本来よりも1試合少ない状況での新記録樹立は、今年の大阪桐蔭打線が圧倒的であることの証明であろう。

くわえて6回には3試合連続の2桁得点を達成。その後も、大会新記録をさらに伸ばすチーム11本目の本塁打が生まれ、先発選手全員がヒットを放つなど、一方的に試合をすすめ、結果的に16安打の18得点と大量リードを奪った。

 

大阪桐蔭の先発、前田悠伍は序盤から奪三振ショーを披露。7回112球11奪三振、被安打2と圧巻のピッチングを見せた。5回に守備の乱れから近江に1点を奪われたものの、自責点は0。大会通算での防御率も0.00を記録し、「高校生No.1左腕」らしい前評判通りの活躍を見せた。

 

8回からはこのセンバツで前田より長いイニングを投げ、幾多の快投をみせた川原嗣貴が登板。これまで安定感がいま一つだった川原は、この大会で急成長を遂げた。その川原は2イニングを無失点に抑えて、見事に胴上げ投手になった。西谷浩一監督が川原に最後のマウンドを託したのは、今大会の功労者へのご褒美、という意味合いもあったのではないだろうか。

 

このように18対1と圧倒的な実力差で近江を下した大阪桐蔭だったが、この試合の原動力になったのは、昨年夏の敗戦の悔しさだったのだろう。昨年の同カードでは、大阪桐蔭が4点を先取しながらも後半に失点し、逆転負けを喫した。この敗退の経験が、今年の大阪桐蔭の多彩な攻撃戦術と、投手陣の底上げに繋がったように思える。

決勝にふさわしい成長のドラマを感じ取ることができる、4年ぶりのセンバツ優勝だった。

 

 

大阪桐蔭 主要選手成績

 

打撃成績

5伊藤  打率.316  2本塁打  5打点

9谷口  打率.600  2本塁打   7打点

2松尾  打率.353  2本塁打   4打点

3丸山  打率.600   0本塁打  11打点

8海老根  打率.421  2本塁打  6打点

7田井  打率.238   1本塁打  5打点

4星子 打率.375   1本塁打   6打点

6鈴木 打率.400   0本塁打  2打点

1前田  打率.143  0本塁打   1打点

代工藤 打率.200 1本塁打   2打点

 

投手成績

前田  防御率0.00  13回  23奪三振

川原  防御率1.50  18回  19奪三振

別所  防御率0.00  4回    3奪三振

南     防御率0.00  1回    3奪三振

 

次ページ   なぜ今年のセンバツでは守備のミスが多かったのか
1 2
 第5回
第7回  
データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

関連書籍

アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論

プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

山田陽翔を攻略をした大阪桐蔭の「リベンジ」とコロナ禍のセンバツの課題