ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。

ストーマ装具のストックが残り1個になっていた。このことが何を意味するかわかりますか? 結論からいうと、わたしの尊厳が非常にピンチの局面を迎えていてやばいです。
我らオストメイトは、肛門からではなくお腹に生えているストーマ……つまり腸から排泄をするわけですが、腸には筋肉がないため、自身の意思では排泄のタイミングをコントロールできません。お尻みたいにキュッと締められない。そこで、ストーマを覆うようにパウチみたいな装具をお腹に貼り付け、そのパウチ内に排泄物を溜めてしのいでいるのは、以前も説明したとおり。装具の排出箇所にあたるキャップ部分が、肛門の代わりになってくれているイメージ。だから、このストーマ装具がないと、あの、なんていうか、垂れ流すよりほかないのです。
わたしは、お腹に貼り付けた日から5、6日目に交換が必要なタイプのストーマ装具を使っていて、念には念を入れて、だいたいいつも5日目には新しいものに貼り換えている。その前提において、装具のストックが残り1個しかないという今の状況は、最後に交換した日から数えて5日目に、社会生活を営むにあたっての尊厳が失われることを意味します。世の中には肛門排泄のコントロールが困難な人向けに、オムツという便利なものが販売されているけれど、そのオムツのストックが切れたとでも思ってもらえれば伝わるだろうか。ちょうど今日が交換の日なので、いよいよ最後のストックもなくなってしまうし、このままいけば、わたしが尊厳を保てるのもあと5日……
……東京23区住まいだから注文さえすればすぐに届くだろうとは思いつつも、それなりに冷や汗をかきながら注文しました。忘れていた、では済まされない。万が一到着が間に合わなかったときに、失うものが大きすぎる。装具は明後日には届くとのことだったので、尊厳はなんとか確保できました。よかった。ちなみに、ストーマ装具や関連用品は、電話で注文する仕組み。世の中にはストーマ用品の専門店がいくつかあるみたいで、そのうちのひとつにお世話になっている。カタログを見ながら電話1本でいろんなメーカーの装具や用品を注文できて、とっても便利。これは別に自分で選んだお店というわけではなくて、病院がその専門店と提携していたというだけなのだけれど。ストーマ用品は入院中から専門店を介して買う必要があったため、退院した今も引き続きお世話になっている。
現実問題、もし注文忘れや在庫不足、配達遅延があったとしたら、わたしはいつもの病院へ駆け込んで「ストーマ装具売ってください〜、注文し忘れました〜」と泣きつくことになるのだろう。切らすと詰むという点においては生理用品と一緒だけれど、ストーマ装具は生理用品と違って、コンビニやドラッグストアじゃ買えないから。でも、オストメイトって日本に20〜30万人いるらしいし、約0.5%の1000人くらいは注文し忘れて青ざめた人もいる気がする。いや、もっと多いかもしれない。みんな病院に駆け込んでいるのかな。病院も大変だな。駆け込むことすら間に合わなくて、お手洗いで1日過ごすはめになった人もいるんだろうな。明日は我が身。ウケる。いや、ウケない。
でも、ストーマ装具のセーフティーネットとして病院を利用するのは、できる限り避けたいところ。救急車の利用や祝日の緊急手術などで、ただでさえ迷惑をかけまくっているというのに。病院に行くこと自体は全然嫌じゃないんだけれどね。先生も看護師さんも優しい人ばかりだから。
わたしの行きつけの病院には「ストーマ外来」というニッチな外来があるのですが、ストーマ外来の看護師さんは、通院のたびにストーマ関連の試供品をプレゼントしてくれるので、わたしは彼女にとても懐いています。本当に毎回くれる。おばあちゃんよりくれる。物をくれる人はいい人の法則。いい人といえば、いつもお世話になっているストーマ用品の専門店は、Web注文だと5,000円以下の注文は550円の送料がかかってしまうのに、電話注文だと少額の注文でも送料が無料になるシステムが採用されていて、それも非常にありがたいなと思っています。考えれば考えるほど謎のシステムだけれど。注文処理の手間的に、送料無料にするとしたらWebのほうじゃない? でも、これには身体障害者手帳を交付されたオストメイトへの給付制度が関わっているそうで、いろいろな背景があるらしい。わたしは一時ストーマなので障害者手帳を持っていないから、そのあたりの事情はあんまりよくわからないのだけれど……。
とにかく、なんか、みんな優しいよな〜。オストメイトになったことによる嫌な思い、たぶんひとつもしていないもん。いや、さすがにそんなことはないか? でも、あったとしても忘れている。世の中、全然捨てたもんじゃない。本当に、いつもありがとうございます。あとはわたしが注文を忘れさえしなければ、日々はつつがなく流れていくはず。守ろう、尊厳! いや、まじで。
(金曜更新♡次回は3月21日公開)
プロフィール

ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。