平成消しずみクラブ 第11回

官僚たちの矜持

大竹まこと

 佐川宣(のぶ)寿(ひさ)・前国税庁長官は今何を思っているのだろう。
 この原稿を書いている三月一四日朝日新聞の夕刊には一面トップに「佐川氏を国会招致へ」の文字が躍っている。それより少し小さく「公文書改ざん 自公容認で合意」とある。
 たぶん彼は、どこかでこの夕刊を見ている。「自公容認で合意」。穴のあくほど見ても、文字の意味が伝わってこないのではなかろうか。
 新聞にはこうある。
「与党側はこれまで佐川氏の国会招致に否定的だった。だが、改ざん問題をめぐる安倍政権への批判が厳しさを増す中(中略)容認姿勢に転じた」
 彼は、何をしたのか。

 森友問題は、国政選挙をまたいで、一時期停滞していたが、三月二日の朝日新聞の報道から再燃した。
 新しく出てきた公文書により、今まで財務省が出していた公文書は改ざんされていたことがわかったからだ。
 佐川氏は、森友の件で近畿財務局との交渉の過程や記録の有無について、政府参考人として、国会で答弁していた。
「国有地は時価で売るのが基本で、適正な価格で売っている」(毎日新聞・二〇一七年四月一〇日)
「価格につきまして、こちらから提示したこともございませんし、先方から、いくらで買いたいといった希望があったこともない」(毎日新聞・二〇一七年一二月四日)
 佐川氏は、理財局長から去年の七月に国税庁長官に就任していたが、今年の三月に辞任している。わずか八カ月の任期であった。
 彼の答弁に大きな疑念が生まれた。辞任会見の映像を見た。何か手にメモのようなものを持っている。
 記者のどの質問にも誠実に受け答えしているように見えた。質問に答えたあと、深く大きく息を吐く。目が誰かの助けを求めるように宙をさまよう。
「これ以上のコメントを差し控えさせていただきたい」と何回か答えた。
 私は公務員だからいつも一生懸命、職責を果たしてきた、と答えた瞬間、記者からの厳しい質問が飛んだ。
 それは、国民に対してなのか、それとも政権に対してなのか。

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連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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