ホシノ やくさん、改めてジラース戦を5位に選んだ理由を教えてください。
やく 簡潔に言えば“間合い”になります。この緊張感漂う間合いの凄みに魅入られてしまったわけです。
古谷 なるほど、間合いですか。
やく ええ。ウルトラマンとジラース、宇宙人と怪獣の戦いなのに、映画や舞台で繰り広げられてきた往年の決闘の名場面的要素がたっぷりと仕込まれている。ここまで魅惑のエッセンスを散りばめられてしまったら、第5位に選ばざるを得ません。
古谷 このジラースが登場する第10話「謎の恐竜基地」の監督は満田かずほさんでしてね。
やく 初監督作品がウルトラQの第21話「宇宙指令M774」。
古谷 さすがお詳しい(笑)。その満田さんは根っからの映画人ですから、ご自分の敬愛する黒澤時代劇作品のオマージュとして演出を作り込んだと思うんですよ。それに特殊技術監督の高野宏一さんも、時代劇が大好きでしたし。
やく まさに丸ごと「用心棒」の世界ですものね。
古谷 そうです。絵の雰囲気が「用心棒」的な質感があります。
ホシノ そのニュアンスはわかります。対峙するシーンでウルトラマンがスぺシウム光線の威力をジラースに見せつけるところなんかはモロに時代劇ですし。凄腕の浪人同士が河原で対決するときに、どちらか一方が小枝を空に投げつけ、スパッと斬り、自分の腕前を見せつけるような。
古谷 そうそう。
やく でも、ただでさえ3分間という決められた時間の中で、見せびらかすように必殺のスぺシウム光線を放つのは、いくらウルトラマンといえど、いかがなものか――とは思いましたけど(笑)。
古谷 ハッハハハ。
ホシノ それと、時代劇の対決シーンのエッセンスだけではなく、青春映画の不良学生同士の戦いも彷彿させていますよね。
やく お互いの間合いを取るシーンでのドラムの効果音の入れ方とか。あれは東映の「不良番長」シリーズで、若き日の梅宮辰夫がライバルの不良学生とタイマンをはるときに流れていたドラムの効果音を思い出せます。
ホシノ それはまた、えらいマニアックなたとえ話で。
古谷 ハッハハハ。
やく いや、マニアックであることが重要なわけで。さきほど古谷さんがおっしゃった満田監督と高野さんの黒澤時代劇作品へのオマージュという言葉。だいたいマニアックでなければ、よりよいオマージュを創れないわけで。
ホシノ 確かにそうですね。
やく このジラース戦はマニアックを基本に見事なオマージュ作品として高く評価してもよろしいんじゃないでしょうか。
古谷 だと思います。
やく なによりマニアックな満田&高野ペアが楽しんで戦いを、絵を作り込んでいるのがよくわかるし、それだから時代劇を見慣れていた私たちも楽しめた。
古谷 私もやっぱり意識していましたよね、黒澤時代劇作品を。撮影現場で、監督は黒澤時代劇をやりたいのだなと感じていましたから。ああ、そうだ、実はもうひとりいたんですよ、撮影現場にマニアックな人が。
やく え、どなた?
古谷 中島春雄さん(笑)。
やく・ホシノ おおおお。
古谷 東宝の時代劇作品にも数多く出演された先輩ですから。侍役や浪人役もすべて経験済み。時代劇のなんたるかを熟知した人でしたし。今でも思い出すのが、撮影に入る前に満田監督と中島さんがゴニョゴニョと話し込んでいて。たぶん、時代劇的な演技プランのあれこれを細かく詰めていたんでしょう。これぞマニア同士の話し合いといいますか。
やく どの監督も古谷さんには大雑把な指示しか出さなかったのに(笑)。
古谷 そうそう(笑)。それで中島さんが「古谷、行くぞ。まずはこうやるからな」って指導してくれて。「俺はこう動く。お前はこうやって動け。大丈夫、心配するな、そんなに力まなくても、俺が投げ飛ばされたように飛ぶ」とまで言ってくれたんです。
やく さすがですね、中島さんは。
古谷 そこまでね、きちんと対ジラース戦のテーマが、さきほどやくさんもおっしゃっていたように“映画や舞台で繰り広げられてきた往年の決闘の名場面などがたっぷりと仕込まれている”ことが理解できていたので、気持ちは込めやすかったですね。僕も中島さんも、お互いにウルトラマンとジラースなんですけど、なんだろうな、その目に映っていたのは刀を構えた侍同士、素浪人同士だったと思います。
ホシノ こうやって話をうかがっていると、当然のようにも思えますが、最後の決め技「ウルトラかすみ斬り」も完全に時代劇を反映させていますね。
やく 時代劇における達人同士の決め手は、あんな感じで一瞬にして決着がつきますから。
古谷 いやあ、これは後になって思ったのですが、その「ウルトラかすみ斬り」。ウルトラマンが急所を突き、ジラースは口から血を流して絶命する程度でよかったですよ、本当に。
ホシノ というのは?
古谷 ほら、たまに時代劇であるじゃないですか、お互いに走り込んでの斬り合いのときに、相手の首まで斬り落としてしまうシーンが。
やく それはNGですね、子供たちに見せられない。
古谷 その通り。
ホシノ エリ巻きを剥ぎ取るシーンもヘタしたら御大チェックを受けていたかもしれない。
古谷 もし、ウルトラマンがジラースの首を斬り落としていたら、間違いなく御大は「謎の恐竜基地」をお蔵入りさせていたはず。
やく 撮影時、御大はどこに?
古谷 東宝で映画製作中だったと思います。ですから、仕上がったフィルムをチェックしていたと思うんですが、忙しいこともあってエリ巻きを剥ぎ取るくらいはギリギリセーフにしたのだと思います。でも、首までとなると完全NGを出していたでしょうね。いや、エリ巻きを剥ぎ取ったシーンも、必要以上に血が噴き出していたら、お蔵入りか、撮り直しを命じていたかも知れない。子供には血を見せるな、悲惨な表現を見せてはいけないと常々、口にしていた人でしたからね。
プロフィール
古谷敏(ふるや さとし)
1943年、東京生まれ。俳優。1966年に『ウルトラQ』のケムール人に抜擢され、そのスタイルが評判を呼びウルトラマンのスーツアクターに。1967年には「顔の見れる役」として『ウルトラセブン』でウルトラ警備隊のアマギ隊員を好演。その後、株式会社ビンプロモーションを設立し、イベント運営に携わる。著書に『ウルトラマンになった男』(小学館)がある。
やくみつる(やくみつる)
1959年、東京生まれ。漫画家、好角家、日本昆虫協会副会長、珍品コレクターであり漢字博士。テレビのクイズ番組の回答者、ワイドショーのコメンテーターやエッセイストとしても活躍中。4コマ漫画の大家とも呼ばれ、その作品数の膨大さは本人も確認できず。「ユーキャン新語・流行語大賞」選考委員。小学生の頃にテレビで見て以来の筋金入りのウルトラマンファン。