エテリ・トゥトベリーゼの元には、「小さな子たち」がたくさんいる。
エテリが指導をする国営スポーツ教育センター「サンボ70」を訪れたとき、広いトレーニングジムに、ほんとうに小さな女の子がいた。
見た目だけで言えば、四、五歳のようにも見えた。「サンボ70」には、四歳児も練習生として存在しているから、そうであっても別におかしくはない。
驚いたのは、身体つきだ。女の子はタンクトップに短いパンツというスタイルだった。線がはっきりわかる。
身体には、脂肪がほとんどついていなかった。短いパンツから、はち切れるように丸く、筋肉がはみ出していた。
どれだけ練習をすれば、そんな身体ができるのか。決して、それを褒めているのではない。褒めようとは思わない。
幼少期から厳しい訓練が、のちに少女たちを苦しめる。珍しくない現実だ。
それでも、自ら望んで、厳しさに身を置く少女たちは後を絶たない。皆、アリーナ・ザギトワ(二〇一八年、平昌オリンピック金メダリスト)になりたいのだ。
ジムにいた女の子は、ある意味、ロシアの強さを象徴していると言えるだろう。
エテリ・トゥトベリーゼは、「小さな子たち」を徹底的に磨き上げる。天才にする。それも次々に、だ。来年二月の北京オリンピックでは、表彰台を独占するかも知れない。
エテリについては、批判も数多くある。たとえば、「鉄の女」、「厳しすぎる」といった内容が、だ。
私はそれらに反論をしない。でも一方で、しっかりと認めている。彼女が世界でいちばんの指導者だ。他の追随を許さない。
時期が来て、またロシアに行けるようになったら、「サンボ70」を訪ねたい。きっと、そこには、新しい小さな子たちがいるのだと思う。
プロフィール
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宇都宮直子
ノンフィクション作家、エッセイスト。医療、人物、教育、スポーツ、ペットと人間の関わりなど、幅広いジャンルで活動。フィギュアスケートの取材・執筆は20年以上におよび、スポーツ誌、文芸誌などでルポルタージュ、エッセイを発表している。著書に『人間らしい死を迎えるために』『ペットと日本人』『別れの何が悲しいのですかと、三國連太郎は言った』『羽生結弦が生まれるまで 日本男子フィギュアスケート挑戦の歴史』『スケートは人生だ!』『三國連太郎、彷徨う魂へ』ほか多数。2020年1月に『羽生結弦を生んだ男 都築章一郎の道程』を、また2022年12月には『アイスダンスを踊る』(ともに集英社新書)を刊行。