減量の科学 第5回

内臓脂肪クライシス! 自分の体型を医学的指標で確認

福田正博

 今回は、「太り気味・太っている・肥満・隠れ肥満」とはどういう状態か、自分のいまの状態は客観的にどうなのか、医学的な指標、数値で確認してみましょう。治療の現場でも、意外に自分の体型を認識していない人が多いのです。

 減量したい場合、肥満症という病気の有無にかかわらず、まずは、自分の体がどれぐらいどのように太っているのか、肥満ならば内臓脂肪型なのか皮下脂肪型なのか、標準なのか、メタボ(メタボリックシンドローム。以下メタボ)なのか、やがて肥満やメタボかもしれないのかを認識しましょう。その上で、減量はなぜ必要なのか、その目的を「冷静に」考えます。

理想の健康体重はBMI=22

 第2回で「肥満症と肥満の違い」や、「日本肥満学会が体格の指標として定義しているBMI(Body Mass Index:体格指数)の計算式」を紹介しました。そのBMIこそが、自らの体型を示す、国際的に用いられる医学的な指標のひとつです。

 医療の現場では、自分のBMIの把握が減量の第一歩として知られています。しかし前述のように、「減量したい、しなければと悩んでいる」と話す患者さんの中でも、「BMIって何?」という人はとても多いのが現実です。

 BMI=体重(㎏)÷身長(m)÷身長(m)で計算してください(第2回で示した式と同じです)。次に、第2回に掲載した「肥満度分類」の表から、「判定」の列に記された「肥満度」を確認してください。

 BMIが「25以上」であれば肥満に分類されます。これに加えて、高血圧、糖尿病、脂質異常症など11の健康障害のうちの1つでもある場合は「肥満症」という病気だと診断され、減量のための治療が必要になります。

 そして今回のポイントは、第2回でも述べた「BMI=22が健康的な体重」だということを理解することです。この数値の根拠は、日本人の統計ではBMI=22がもっとも病気になりにくい状態であること、とくに糖尿病、高血圧、脂質異常症などの生活習慣病のリスクが低いことが多くの研究で判明している点にあります。

自分にとって適切な体重を計算

 BMIはいかがでしたか。では次に、自分にとっての健康的な体重を算出しましょう。

 例えば、身長が1.7mの人では、BMIが22となる体重は、上記の式を逆算して1.7✕1.7✕22=約63.6㎏です。性別にかかわらず、身長を基準として計算します。簡単ですね。

 ただし、個人の体質や健康状態によっては、適切な体重が異なることがあります。65歳以上や病気の種類によっては、BMIが23~24.5ぐらいのほうが栄養の面から良いとされることもあります。

 一方で、高齢になると体脂肪が増加するため、BMIが22~24ぐらいでも体脂肪がかなり高い場合は、健康リスクが高いケースもあります。後述する3番めの指標「WHtR」も参考にしてください。

■2番めの肥満指標はおなかまわりのサイズ

 肥満とされるのはBMIが25以上であると言いましたが、では、BMIが24.5~24.9で肥満直前の数値であれば、健康リスクの心配はないのでしょうか。

 実はそうではありません。まず、肥満直前の数値は、近い将来は肥満になる可能性が高いとも読み取れます。また、BMIが25未満でスリムに見えている人でも、次のように肥満だと診断されるケースが多くあるので注目してください。

 肥満かどうかを知る医学的なスケールの2つめは、「おなかに内臓脂肪が蓄積しているかどうか」です。内臓脂肪がいかに健康に障害をもたらすかは後述しますが、たとえBMIが25未満であっても、腹部CT検査などで「内臓脂肪面積が100平方㎝」であれば「内臓脂肪型肥満」と診断されます。

 ただし、CT検査をしなくても、内臓脂肪型肥満かどうかの目安は自分でも測定することができます。さっそく測ってみましょう。

 まっすぐに立ち上がった状態で、おなかがもっとも出ている部分の周囲をメジャーで測りましょう(図1)。へその高さか、へその少し上や下であることが多いです。

図1 おなかまわりを計測しよう

メジャーがたるんだり、ぎゅっとしぼったり、おなかをへこませたりしないように、地面と水平を保って測ってください。息を吐いてリラックスし、鏡を見ながら行うか、誰かに計測してもらうといいでしょう。

 その腹囲が「男性は85㎝以上」、「女性は90㎝以上」であれば、BMIが25未満であっても、「内臓脂肪型肥満」である可能性は高いのです。この体型を「隠れ肥満」と呼んでいます。この腹囲の基準値は、メタボの診断基準にも用いられています。

<Xさんの例>

 Xさん・51歳男性は身長が172センチ、体重は68キロ。BMIを計算すると、68÷1.72÷1.72で約23です。顔、手、足はスリムで、見た目には太っていません。

 ところが、腹囲は88㎝あり、特定健診で高血圧と糖尿病を指摘されました。医師からは、「肥満ではありませんが、内臓脂肪がたまっている隠れ肥満です。生活習慣病が2つあるので、『メタボ』でもあり、治療が必要です。まずは食事療法と運動療法を開始しましょう」と告げられました。

 Xさんは、「ええっ、太っていると言われたこともないのになぜ私が肥満? 何かの間違いでは?」と食い下がったそうですが、医師に「放置すると、生活習慣病が悪化して、動脈硬化に発展する可能性が高いです」と説得されたとのことです。「診断はショックでしたが、冷静になって、自分が内臓脂肪型肥満ですでに病気が進みつつあることを認識しました。おなか? 出っぱってるなあと自覚していましたが、服装で隠していたのと、体重が気にならないので放っていました」と肩を落とします。

 Xさんのように、顔、手、足は細めでも、おなかがぽこんと出ている体型は日本人男性の特徴だと言われます。欧米人に比べて、日本人を含むアジア人は、内臓脂肪を蓄積しやすいことが明らかになっているのです。

 おなかのサイズはいかがでしたか。BMIが25未満でも、おなかの周囲のサイズが前述のように、男性は85㎝以上、女性は90㎝以上であれば、肥満だということを認識しましょう。

新しく注目される3番めの指標「ウエスト÷身長=WHtR」 

 すでに気付いている人もおられると思いますが、BMIは 先述の計算式のように、体重を身長で調整した指標 のため、体脂肪の量や付き方(分布) までは反映していません。そのため、身長と体重が同じ人たちの場合、内臓脂肪が多い人 と筋肉量が多い人 とを比較しても、BMIは同じ数値になります。しかし実はこの両者では、健康リスクは大きく異なります。健康に障害をもたらすのは、内臓脂肪が多い人のほうなのです。    

 そこで近年、体型を認識するにあたっての新しい指標として、「ウエスト・身長比」を示す「WHtR」(ダブルエイチティーアール:Waist-to-Height Ratio)が健康リスクの予測に優れているとして注目されています。

 WHtRは ウエストのサイズを身長で割った数値 です。先述の「おなかまわり」の部位ではなく、上半身でもっとも細いウエスト部分を計測しましょう。次の式で計算します。

 WHtR=ウエスト周囲(㎝)÷身長(㎝) 

 この数値が「 0.5」以上 だと、内臓脂肪型肥満のリスクが高いとされます。ウエストが95㎝で身長が170㎝の場合は、95÷170=約0.56です。0.5以下になるためには、身長から逆算してウエストを85㎝以下にする必要があります。

 WHtRは単純な境界値を用いてリスクが判断できるため、BMIのように、標準・過体重・肥満などの分類がやや複雑な指標よりも直感的に理解しやすいメリットがあります(※1)。

 とくに 、内臓脂肪の蓄積 をより正確に反映します。内臓脂肪が多いと、糖尿病、脂質異常症、高血圧などの生活習慣病から動脈硬化、心血管疾患、脳卒中のリスクが高まる ため、健康状態をより適切に評価できるわけです。

 またBMIは 年齢や性別によって適切な基準が異なる ことがありますが、WHtRは 年齢や性別に関係なく「0.5以上かどうか」 で判断されます。そのため、子どもから高齢者まで広く適用できる指標として有用です(※2)。

 今後はこの数値が医療の現場で広く使われるようになると思われます。BMIが正常範囲だから安心と思っている方もぜひ、WHtRを計算してみてください。

 以上の3つの指標を考え合わせると、健康減量の道の理想の数値(指標)は、「BMIは25未満・腹囲は男性85㎝未満、女性90㎝未満・WHtRは0.5未満」と言えるのです。この数値が、連載の後半に伝える実践編での目標となります。

脂肪細胞の主成分は「中性脂肪」

 では、その医学的な数値(指標)の根拠を述べます。まず、体に蓄積される体脂肪について知っておく必要があります。

 体脂肪とは本来、ヒトの生存のために必要不可欠な組織です。ヒトは食事から得た余分なエネルギーを脂肪として体の随所に蓄えて、飢餓や病気、また運動時に利用するように働きます。

 体脂肪は、脂肪細胞が無数に集まったものです。脂肪細胞には白色脂肪細胞、褐色脂肪細胞、ベージュ脂肪細胞が存在しますが、体脂肪の大半は白色脂肪細胞であり、一般に、脂肪細胞といえば白色脂肪細胞を指します。

 そして、ひとつずつの脂肪細胞の大部分は「中性脂肪」(トリグリセリド)です。中性脂肪と聞けば、健康診断の血液検査の項目のひとつだなと、ピンとくるでしょう。脂肪細胞には、ドロッとした液体の中性脂肪が詰まっているのです。質が酸性やアルカリ性ではなく中性なので中性脂肪と呼びますが、一般に脂肪といえば、中性脂肪を指します。

 ヒトの中性脂肪もバターや霜降り肉の白っぽい筋と同じように、常温では固体です。血液検査で中性脂肪の数値が高いと指摘されたときは、血液中に固体の中性脂肪があふれているとイメージしてください。

 脂肪細胞はほかの細胞に比べて、部位によりますが数倍~数十倍と大きく、また、蓄積されるとひとつずつがどんどん膨らみます。図2を見てください。体脂肪がたまっている人の脂肪細胞はひとつずつが大きくて、そのすべての脂肪細胞には中性脂肪が蓄えられているわけです。

 中性脂肪を含んだ脂肪細胞は、女性ホルモン、男性ホルモン、食欲にかかわるホルモンのレプチン(後述)、生活習慣病を予防する物質のアディポネクチン(同)などを分泌し、食欲や血糖値のコントロール、免疫機能など、ヒトの生理機能にかかわっています。

 しかし、問題は脂肪細胞の量が増えて、細胞のひとつずつが肥大する場合です。そうなると、中性脂肪をたっぷり含んだ脂肪細胞は非常に危険な組織に豹変します。さまざまな炎症性の物質(後述)を分泌するようになり、それが健康を阻害し、生活習慣病を引き起こす原因となるのです(後述)。

 つまり、肥満の何が健康に良くないかと言うと、生活習慣病のリスクを高めることです。とくにおなかの中の内臓にからみつく「内臓脂肪」は、全身にあらゆる悪影響をもたらします。

図2 脂肪細胞のイメージ

足の下の丸い粒が脂肪細胞で、各内部の色が薄い部分が中性脂肪。太ると中性脂肪の量が増えて、脂肪細胞は肥大します。内臓に蓄積する脂肪(内臓脂肪)は、血糖を増やして血圧を上げるなどの健康を阻害する物質(アディポカインの悪玉)を分泌します。

見える悩みと見えない危険…「皮下脂肪」と「内臓脂肪」

 ヒトの体には、脂肪がつきやすい部位があります。その部位に応じて、体脂肪は「皮下脂肪」(図3)、「内臓脂肪」(図3)、「異所性脂肪」の3種類があります。それぞれの特徴を理解しましょう。

 ・皮下脂肪……おなか、ふともも、二の腕などの皮膚のすぐ下(内側)に蓄積する。体温を保護する役割がある。女性に多く、手の指でつまむことができる。下半身太りのシルエットからフルーツの形になぞらえて「洋ナシ型肥満」(図4)と呼ばれる。

内臓脂肪……皮下の奥には筋肉があり、さらにその奥の胃や腸の周りの空洞に蓄積される脂肪。主に、腸間膜(小腸や大腸を支えている膜状の組織)に蓄積する。内臓を衝撃から守るクッションのように働く。男性に多く、胸のすぐ下からおなかにかけてぼんと出っぱるようにたっぷり蓄積され、つまむことはできず、たたくとぽんぽんと音が出やすい。上半身太りのシルエットから「リンゴ型肥満」(図4)と呼ばれる。

図3 あお向けに寝ておなかを輪切りにしたイメージ図

上部のへこみがおへそです。皮下脂肪と内臓脂肪がそれぞれ蓄積している場所を見てください。皮下脂肪は表面に、内臓脂肪は筋肉の奥に蓄積しています。

図4 肥満の体型の特徴

 

左は女性に多い、下半身に脂肪がつく「洋ナシ型」の「皮下脂肪型肥満」。右は男性に多い、胸からおなかの上半身に脂肪がつく「リンゴ型」の「内臓脂肪型肥満」。

 内臓脂肪で産生・分泌される生理活性物質を総称して「アディポカイン」(以前はアディポサイトカインと呼ばれていました)といいます。それには、次のような物質があります。なお、善玉・悪玉とは、イメージしやすいようにそう呼んでいますが、実際には善玉や悪玉の区別はするべきではなく、それぞれに役割があります。

アディポネクチン 善玉と呼ばれる

 インスリンの感受性を高めて血糖値を下げる。血管を拡張し、血圧を下げる。抗炎症作用を持つ。動脈硬化を抑制する。

レプチン 食欲を抑えるホルモン

 食欲を抑制する。エネルギー消費を促進する。満腹感を脳に伝える。脳の視床下部に作用して交感神経の活動を促す。体内の脂肪量が多いほど分泌量が増加する。ただし、肥満状態になるとレプチンに対する感受性が低下し、レプチンが働きにくくなる。これを「レプチン抵抗性」という。

TNF-α(腫瘍壊死因子α) 悪玉と呼ばれる

 炎症を引き起こす。インスリン抵抗性を悪化させる。

PAI-1(プラスミノーゲン活性化因子阻害物質-1) 悪玉と呼ばれる

 血液の凝固を促進する。血栓を形成しやすくする。

 内臓脂肪が蓄積して脂肪細胞が肥大化すると、これらのバランスが崩れ、すい臓から分泌されるインスリンの働きを抑制し、糖尿病を発症しやすくなります。また、血液中に中性脂肪などが増えて脂質異常症をまねきます。その結果、動脈硬化を引き起こし、心臓病や脳卒中といった命にかかわる病気につながります。

 さらに、内臓脂肪から分泌される物質は血圧を押し上げ、高血圧をもたらします。糖尿病、脂質異常症、高血圧は、「3大サイレントキラー」と呼ばれます。どの病気も、痛くもかゆくもなく自覚症状がないままに進行し、気づいたときにはすでに重篤な状態であることが多いため、「静かに忍び寄る殺し屋」と称されるのです。

 内臓脂肪は男性に多いと述べましたが、その理由は、女性ホルモンにあります。女性ホルモンのひとつの「エストロゲン」は、内臓脂肪を分解し、蓄積を抑える働きがあるのです。そのため、20~30代の女性には内臓脂肪が少なく、前述の悪玉物質を分泌することがないので血液さらさらの状態が多いわけです。

 ただし、エストロゲンの分泌量が減少するおよそ50歳以降は、女性でも内臓脂肪が蓄積しやすくなり、「隠れ肥満」のケースが急増するので注意が必要です。「更年期ごろから急に太り出して、おなかが出てきました。食べる量は前と変わらないのに!」と話す女性の患者さんはとても多いです。その最大の要因は、「ホルモンの変化」と考えられます。

 こうしたことから、もうおわかりでしょう。「敵は内臓脂肪にあり」なのです。内臓脂肪は悪玉物質を放出して病気をまねきますが、指でつまめないだけに蓄積し始めても気づきにくいという難点があります。外見上の体重増加は見える悩みですが、真の敵はおなかの奥に存在する見えない脂肪なのだということを認識しましょう。

新たな見えない敵「異所性脂肪」の脅威

異所性脂肪」は新しい概念で「第3の脂肪」と呼ばれ、主に2000年以降の研究でその存在が明らかになってきました。本来は脂肪が蓄積しないはずの部位の「異所」、具体的には肝臓、すい臓、心臓、筋肉などに蓄積する脂肪を指します。皮下脂肪や内臓脂肪からあふれた脂肪がこれらの臓器に蓄積されます(※3 ※4)。

 異所性脂肪は、たまった各臓器の機能を低下させて、さまざまな健康リスクを高めることがわかっています。よく知られている病気では、「脂肪肝」が挙げられます。肝臓の細胞の30%以上に脂肪が蓄積している、あるいは肝臓の重量の5%以上が脂肪で占められている場合に脂肪肝と診断されます。脂肪肝は、中性脂肪が肝臓に異様に蓄積している状態なのです。

 肝臓は病状が進んでも自覚症状がなかなか現れないため、「沈黙の臓器」と称されます。それゆえに脂肪肝を放置すると、肝炎、肝硬変、さらには肝がんへと進行する可能性もあり、非常に危険です。

 そして、日本人の3人に1人が脂肪肝であるというデータがあります(※5 ※6)。医療の現場では現在、脂肪肝の重症化予防のカギとして、定期的な健康診断や検査を推奨し、肝機能障害の早期発見と適切な治療を啓発しています。

 また、異所性脂肪がすい臓にたまると、血糖値の調整を担うインスリン(第2回参照)の産生・分泌・機能が低下して「インスリン抵抗性や分泌低下」をまねき、糖尿病を引き起こします。すい臓に脂肪が蓄積された「脂肪膵(しぼうすい)」では、肥満ではない人でもそうした症状になりやすいという報告があります(※7)。

 さらに、心臓の表面に直接的に蓄積する脂肪が危険であることがわかってきました。「心臓周囲脂肪」を「EAT」(Epicardial Adipose Tissue)と呼びますが、EATからは「炎症性サイトカイン」(免疫細胞などから分泌されるタンパク質で、炎症反応を促す物質の総称)が分泌され、心臓や冠動脈の炎症を引き起こします(※8)。

 それは心房細動(不整脈の一種。心臓の上の部屋の心房が細かく震えて、正常に拍動しなくなる)や心不全(心臓のポンプ機能が低下し、全身に十分な血液を送り出せない状態)をまねき、命にかかわる危険性があります。

 太るほどに異所性脂肪はたまっていきますが、日本人を含む東アジア人の場合は、内臓脂肪同様にBMIが25以上でなくても蓄積する人がいることもわかっています。

 こうしたことから、肥満の場合は、述べてきた生活習慣病、またほかには睡眠時無呼吸症候群、ぜん息、変形性関節症、がん、認知症、脂肪肝、胆石、逆流性食道炎、うつ病、不安障害など多くの健康リスクにかかわり、健康寿命を縮めることが明らかになっています。

 ここで強く伝えておきたいのは、減量の実践はあくまで健康維持への手段であり、目的ではないということです。目的は、近い将来予測できる病気を予防する、あるいは持病を改善することであり、「できるだけ長く健康に生活すること」です。見た目のスリム化はその目的に近づくためのひとつのモチベーションだと考えましょう。その認識が、適切な健康体重実践へのスタートラインです。

 次回は、患者さんからの質問が多い「脂質異常症」について、また、その「患者数は男性より女性のほうが2倍超」という事実に迫ります。

参考

※1 Ashwell M, Gibson S. Waist-to-height ratio as an indicator of ‘early health risk’: simpler and more predictive than using a ‘matrix’ based on BMI and waist circumference. BMJ Open. 2016;6(3):e010159.


※2 Takahashi T, Oka R, Sasaki S, et al. Waist-to-height ratio is a better predictor of cardiovascular risk factors than other anthropometric indices in Japanese adults. J Atheroscler Thromb. 2018;25(5):523-535.


※3   Shulman GI. Ectopic fat in insulin resistance, dyslipidemia, and cardiometabolic disease. New England Journal of Medicine, vol. 371, no. 12, 2014, pp. 1131-1141.


※4 Neeland, I. J., Poirier, P., & Després, J. P. Cardiovascular and metabolic heterogeneity of obesity: clinical challenges and implications for management. Circulation, vol. 137, no. 13, 2018, pp. 1391-1406.


※5 Kawamura, T, Takahashi, Y, Maeda, M, et al. (2023). Prevalence and risk factors of non-alcoholic fatty liver disease in Japanese adults: A nationwide health screening study. Journal of Hepatology, 78(5), 1123-1131. 


※6 Ministry of Health, Labour and Welfare. (2021). Report on the prevalence of non-alcoholic fatty liver disease in Japan based on national health screening data. Retrieved from :

https://mhlw-grants.niph.go.jp/system/files/report_pdf/202021004A-buntan17_0.pdf

※7 Wagner, R., Eckstein, S.S., Yamazaki, H. et al. Metabolic implications of pancreatic fat accumulation. Nature Reviews Endocrinology  18, 43–54 (2022).


※8 Mahajan R, et al. “Epicardial Adipose Tissue and Atrial Fibrillation: Epidemiology, Mechanisms, and Interventions.” Circulation. 2015;132(20):1824-1838.


構成:阪河朝美/ユンブル

 第4回
減量の科学

現在、世界ではダイエット目的にて、自由診療での「やせ薬」の購入や個人輸入によるニーズが急増している。もちろんそれは、日本も例外ではない。こうした動きを背景に、従来の「食事がまんダイエット」は「薬に頼るダイエット」に変わりつつある。しかし、果たして健康への影響はどうか。人体にとって必要な減量とは何か、どうすれば減量できるのか、減量治療の最前線から、それらを紹介する。

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プロフィール

福田正博

大阪府生まれ。医学博士。日本糖尿病学会専門医。日本臨床内科医会専門医。大阪府内科医会名誉会長。日本臨床内科医会副会長。全国臨床糖尿病医会理事ほか。医療法人弘正会ふくだ内科クリニック院長。滋賀医科大学卒。大阪大学医学部老年医学講座(第四内科)入局後、ハーバード大学・ジョスリン糖尿病センターに留学。所属学会:日本糖尿病学会、日本内科学会、日本臨床内科医会、日本病態栄養学会、日本肥満学会、日本老年病学会、全国臨床糖尿病医会。著書に『糖尿病は自分で治す!』『糖尿病は「腹やせ」で治せ!』『専門医が教える 糖尿病ウォーキング!』『専門医が教える5つの法則 「腹やせ」が糖尿病に効く!』『専門医が教える 糖尿病食で健康ダイエット』ほか。医学会、一般向き講演、テレビ等のメディアでの出演も多数。

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