遺魂伝 第0回

菅原文太、内田裕也、岩城滉一…の名言を引き出したインタビュー連載「いきもん伝」全回プレイバック

新連載「遺魂伝」プロローグ
佐々木徹

黒川紀章さんがなぜか突然、都知事選出馬を告白!

ただ、どの取材もスティーブン・タイラーのような自由に言葉のセッションを楽しめるかといえば、そうじゃない。各編集部から与えられた連載には、それぞれテーマがあり、それに沿ったインタビューが求められる。また、取材相手が何かしらの宣伝目的でインタビューを受けてくれた場合はやはり、その宣伝したいことが話の中心となる。

そういえば、こんな取材があった。

2007年のことだ。

当時、私は『週刊現代』で『18歳の地図』という連載を担当していた。内容的には各界の著名人に、18歳の頃、どんな不安を抱えながら、明日への希望を描いていたかを聞き出すものだった。そこで何回目のゲストだったかは忘れてしまったが、世界的な建築家、黒川紀章さんが取材を受けてくれることになった。

黒川さんは一見、クールに見えるけども、実際にお会いすると、めっちゃチャーミングな人で、私との会話も踊った。そうしたら、これで最後の質問となった時、唐突に黒川さんはこんなことを言い出したのだ。

「あ、そうだ。再来週ね、記者会見するから。僕ね、都知事選に立候補するんだ」

えっ、マジっスか。

「うふふ、驚いた?」

ええ、はい。じゃあ、出馬に向けての準備は終えられているんですね。

「いや、奥さん(若尾文子)の了解だけ取れていないんだな」

マズいじゃないですか。

「昨日の夜、初めて奥さんに出馬するって伝えたんだけど、キーッとなっちゃって」

ありゃりゃ。

「それからは口もきいてくれない(笑)」

後日、ニュース番組で、それでも都知事選最終日に黒川紀章とともに選挙カーから有権者に必死に手を振る若尾文子さんの姿を見かけた。最初は夫の決断に反対していたかもしれないが、ヤルとなったら、とことんヤルという若尾さんの女優魂のようなものを感じたものだった。

ともあれ、あの時点で、どのマスコミも黒川さんの都知事選出馬の情報はつかんでいなかったと思う。私は早速、編集部に連絡を入れ、このスクープを踏まえた連載の記事を書きたいと申し出たが、担当編集者に『18歳の地図』のテーマから外れないような内容の原稿に仕上げてくださいと言われた。都知事選の話は別枠で考えます、とも言われ、ま、それはそうだと私も納得した。

その後、黒川紀章の都知事選出馬の記事は『週刊現代』に載らなかった。その背景に何があったかは知る由もないが、なんにせよ、それなりに制約がある人物インタビューというのは、私にとっては無駄な音を省いて構成するクラシック音楽みたいで、ちょっと性に合わないなあ、と思い始めていた。

いや、それまでの制約のある人物インタビューも、それなりに充実していたし、それぞれ楽しかったが、心の奥底では、もっともっと自由にかっ飛んだインタビューをしたいものだと願っていたのは確か。

そんな折、『週刊プレイボーイ』編集部から、お呼び出し。なんでも、私に連載の人物インタビュー企画に取り組んでくれないか、とのことだった。こりゃまた奇特な編集者がいたもんだと驚いたけど、打ち合わせをすると、私の心の底を覗き込まれたような提案で、さらにビックリポン!

「今回の人物インタビュー企画、佐々木さんの自由にやっていいですよ」

マジっスか。

「マジ、マジ。な~んも制約はございません」

マジっスか。

「マジ、マジ。僕らは週刊誌を作っているんですから、人物インタビューページも予想がつかないワクワクドキドキの読み物にしたいんですよね。これから、多くの著名人にインタビューを受けてくれませんかと働きかけますが、たぶん、宣伝に利用される人もいると思うんですね。でも、それは別に、気にしなくてもいいです。宣伝したいことに触れなくてもかまいません。そんな宣伝物、ページの端っこに枠でも作って告知しておけば問題ないですし。佐々木さんには、そんなことよりも、その人物に関する気になるワード、疑問に感じているワードなどをバンバンぶつけて、そこから話を引き出してください」

こうして2012年11月よりスタートしたのが『いきもん伝』だった。ちなみに、連載タイトルの『いきもん伝』は、なんとなく決まった感じ。連載を開始するにあたり〝粋に生きている人〟にお話を聞きたいという超ざっくりとしたテーマを掲げていたので、それでいいじゃないの? と軽めに決定したのだった。

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第1回 石坂浩二  

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プロフィール

佐々木徹

佐々木徹(ささき・とおる)

ライター。週刊誌等でプロレス、音楽の記事を主に執筆。特撮ヒーローもの、格闘技などに詳しい。著書に『週刊プレイボーイのプロレス』(辰巳出版)、『完全解説 ウルトラマン不滅の10大決戦』(古谷敏・やくみつる両氏との共著、集英社新書)などがある。

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