奇跡とつながる神社、西方浄土へつながる夕陽
帰路、空港に向かう海側の道に、気になる神社を見つけて、ぜひ立ち寄りたいと思いました。地図を見ると「八幡奈多宮」とあります。同行の清野さん、大島さんは飛行機の時間を気にしていて、あまり乗り気ではなかったのですが、きらめく海のすぐ隣に、ひっそりとさびれた神社の鳥居が建つ光景は、通り過ぎるにはあまりに惜しいものでした。
境内には外国人らしきご夫婦がいるだけで、私はだんなさんとすれ違う時に、軽く挨拶を交わしました。その直後、清野さんが突然、かたわらにいる奥さんに向かって駆け出しました。当のご夫婦をはじめ、みんなは何が起こったのか、咄嗟に理解できませんでしたが、その女性はなんと、イギリスに在住している清野さんの旧知の友人でした。聞けば、コロナで行き来が途絶え、会う約束がずっと延び延びになっていたそうです。それが、まさか国東で行き交うとは。この地の神秘を感じるハプニングでした。
国東は神秘とともに奇跡とつながった場所です。その思いを最も感じた瞬間がもう一つあります。半島の西側にある真玉海岸で夕陽を見た時です。
大分県で唯一、西の水平線に夕陽が沈む場所。遠浅の海岸に浮かぶ干潟の模様を、夕陽が刻一刻と様相を変えながら、さまざまな色に染めていきます。空に広がる赤、オレンジ、紫の雲と光は、その先に西方浄土があることを感じさせるものでした。古来変わらぬこの眺めとともに、霊的な信仰も脈々と受け継がれてきたのでしょう。
(次章「青森編」へつづく)
構成・清野由美 撮影・大島淳之
オーバーツーリズムの喧騒から離れて──。定番観光地の「奥」には、ディープな自然と文化がひっそりと残されている。『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』のアレックス・カーによる、決定版日本紀行!
プロフィール
アレックス・カー
東洋文化研究者。1952年、米国生まれ。77年から京都府亀岡市に居を構え、書や古典演劇、古美術など日本文化の研究に励む。景観と古民家再生のコンサルティングも行い、徳島県祖谷、長崎県小値賀島などで滞在型観光事業や宿泊施設のプロデュースを手がける。著書に『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』(ともに集英社新書)、『美しき日本の残像』(朝日文庫、94年新潮学芸賞)、『観光亡国論』(清野由美と共著、中公新書ラクレ)など。