ディープ・ニッポン 第7回

青森(3)巌鬼山神社と大スギ、十二本ヤス、北金ヶ沢の大イチョウ

アレックス・カー

異様な形状の「神木」と出会う

 私たちは次に進路を北に、津軽半島・五所川原ごしょがわらの山中にある「十二本ヤス」を目指しました。

 十二本ヤスは「青森の巨木」のリストで写真を見た時に、一目でその形状の異様さに惹きつけられたものです。

 この木はヒバ(ヒノキアスナロとアスナロの別名)の一種で、太い一本の幹が人間の背丈ぐらいの位置から突然十二本の枝に分かれ、それぞれ真っ直ぐ天に向かって伸びています。「枝」と書きましたが、二次的な「幹」と見る方が正確かもしれません。高さ十数メートルの十二本の幹は、間に空気が通らないくらいに密集しています。この形状が魚を突くヤスの形をしていることから「十二本ヤス」の名が付いたとのことです。

 目当ての巨木は地図で見ると、市街地から直線で十数キロメートルほどの距離で、車ならすっとアクセスできそうでした。しかし、実際に行ってみると森のかなり奥深くに位置しており、林業用の狭い道路をそろそろと注意深く進まねばなりませんでした。途中にはところどころ、デコボコとぬかるんだ未舗装の道が出現します。周囲は人の姿がない林で、携帯電話の電波は届きません。ここで脱輪でもしたら大変なことになるとの思いで進みました。

 幸いこの山は杉植林の少ない自然林で、薄暗さはありません。

十二本ヤス アプローチの森

 何度か迷いながらも、陽光を頼りに進んでいくと、十二本ヤスへの入口とおぼしき赤い鳥居に辿り着くことができました。このヤスは、新しい幹が出て十三本になると必ず一本が枯れ、常に十二本の状態が保たれることから、村の人たちが神木と信じてお祀りしているのです。

 入り口の鳥居からヤスを見ることはできません。そこから急な山道を歩いていった先に、小さく開けた場所があり、目の前に十二本ヤスが現れました。

十二本ヤス

 実際に眺めると、写真で見るのとはまったく違う迫力があります。樹齢は約800年、幹回りは約8メートル、高さは約34メートル。見上げると、地上から3メートルほどのところに切り株のようなものが残っていて、そこから数本の新しい幹が伸びています。

 十二本ヤスを見て、私は京都の北山杉に見られる「台杉」という伝統技法を思い出しました。台杉は、枝打ちを経たスギの木を伐採して、その切り株から真上に伸びる数本の細い枝(新しい幹)を育てるという、盆栽的な技法です。台杉の丸太材は、その優美な姿から数寄屋建築の垂木などに好んで用いられましたが、需要の低下に伴って生産は激減し、現在では禅寺などの庭の鑑賞用に用いられる程度になってしまいました。

 十二本ヤスは北山の台杉と同じ現象からできたものではないかと推測しますが、人為的な仕立て方をした北山のスギとは違って、自然から生まれた木の形であり、幹は数百年の時間をかけて見事に太くなっています。私たちは木の前後左右、あらゆる角度からこの奇怪な形を眺めました。十二本ヤスの周囲にも古木がたくさん立ち並んでいて、静かな森に大地の息吹が通っていました。

十二本ヤス 別アングル
十二本ヤス 別アングル
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ディープ・ニッポン

オーバーツーリズムの喧騒から離れて──。定番観光地の「奥」には、ディープな自然と文化がひっそりと残されている。『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』のアレックス・カーによる、決定版日本紀行!

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プロフィール

アレックス・カー
東洋文化研究者。1952年、米国生まれ。77年から京都府亀岡市に居を構え、書や古典演劇、古美術など日本文化の研究に励む。景観と古民家再生のコンサルティングも行い、徳島県祖谷、長崎県小値賀島などで滞在型観光事業や宿泊施設のプロデュースを手がける。著書に『ニッポン景観論』『ニッポン巡礼』(ともに集英社新書)、『美しき日本の残像』(朝日文庫、94年新潮学芸賞)、『観光亡国論』(清野由美と共著、中公新書ラクレ)など。
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