2020年が終わりに差しかかりつつあるなか、新型コロナウイルスは再びその威力を増しつつある。「自粛警察」「不要不急」「感染拡大」といった、記憶の後景へ退きつつあった言葉が再びリアリティを持ちつつある今、家から出られずに欝々とした4~5月の日々を思い出した方も多いのではないだろうか。
緊急事態宣言が解除され、一筋の光明が見えた去る5月末。ピアニストが瑞々しいタッチで綴った当時の日常に思いを馳せ、再び迫る危機を考える。
ステイホームが明けて訪れたのは、ウイルスとの共存世界。
各国で、各分野で、状況対応や変化にはタイムラグが生じている。
とある音楽家として、ここからはどのように過ごし重ねていくことが正解なのだろう。
緊急事態宣言が解除された5月末から、7月上旬。
ここで綴るのは、関東の片隅に暮らし感じた、内から外への変化の日々。
2020年7月
「1、緊急事態宣言の解除」
5月14日。国内39県で新型コロナウイルス「緊急事態宣言」が解除された。
5月25日。残りの8都道府県への宣言も解除された。
宣言解除検討の始まりを伝えるニュースが入ってくる頃から、内の世界から落ち着きが徐々に消えて、不安な日々が戻ってきてしまった。ヨガを定期的に行うことはいつからか放りっぱなしてしまったけれど、体が凝り固まって片頭痛が引き起こされるタイミングで思い出しては行ってみている。真夏日も多く、いつの間にか、半そでやノースリーブの稼働率が上がっている。観葉植物のみどりちゃんは日ごとに新しい葉をつける勢いで大きくなっていて、最早生い茂っている。
ずいぶん長く家にいたのだなと、思う。
状況が少し落ち着いてきたのは、発表される一日の感染者数が全国的に落ち着いてきたことからも読みとれる。そんな中、世の中には、警戒を完全にやめてしまった人、気をつけつつウイルスとの共存を探り過ごす人、そもそもウイルスはなかったのだと考える人と、三方向を向いた人々が独立していて、時折激しくぶつかっているように見えている。
“新しい生活様式”というものは政府から指標が発表されて、それらを元に、自治体毎に具体的な対策方法が異なってとられている。一気に自粛を解く所、少しずつ段階を踏んで解除をする所。それに伴い、飲食店や量販店、観光地の再開状況も様々のようだ。
居住する関東のとある一角。宣言が解かれた翌日、必需品を買いに出た街で目にしたのは、居酒屋には人々が密集して繁盛している様子。「これまで我慢したのだから、乾杯!」音頭を取る声に、マスクを外して道を歩く人々、買ったものをその場で飲食し合う光景。
音楽関係者からのSNS発信には、「対面レッスンを再開します!」という投稿が並んでいる。
これらは正解かもしれないし、数週間後に、ああやっぱり…と、なるのかもしれない。
元通りを感じるニュースや光景にはほっとして、同時に、これで良いのだろうかと困惑している。
“自らの自粛の解き方は、ここから二週間の様子を見て徐々に決めていこう。”
そう思う自分の感覚と世間指標との時間差、矛盾は、緊急事態宣言解除に際し芽生えた“不安”の根っこの部分に大きくあるのだと思う。
この頃、ドイツに家族で住む友人からドイツの事情を諸々と教えてもらう機会を得た。
ウイルス蔓延期は各国、時間差を伴い訪れてきてしまっていて、国内のみならず国際的にも、地域毎に状況や対策が異なってとられている。
日本に先行して第一期の終息を迎え、ロックダウンの解かれたヨーロッパの街の様子はきっと、緊急事態宣言を解かれた後のここ、日本と類似する部分も少なくはないのだろう。
次のストーリーとして、おいてみようと思う。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の関心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の関心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。
プロフィール
愛媛県、松山市に生まれる。
愛媛県立松山東高等学校、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を卒業後、渡独。ヴォルフガング・マンツ教授の下、2006年・ニュルンベルク音楽大学を首席で卒業、続いてマイスターディプロムを取得する。その後オーストリアへ渡り更なる研鑽を積み、2014年帰国。
現在は関東を拠点に、ソロの他、NHK交響楽団、読売交響楽団メンバーとの室内楽、ピアニスト・高雄有希氏とのピアノデュオ等、国内外で演奏活動を行っている。
2018年、東京文化会館にてソロリサイタルを開催。2019年よりサロンコンサートシリーズを始め、いずれも好評を博す。
故郷のまちづくり・教育に音楽で携わる活動を継続的に行っている。
日本最古の温泉がある「道後」では、一遍上人生誕地・宝厳寺にて「再建チャリティーコンサート」、「落慶記念コンサート」、子規記念博物館にて「正岡子規・夏目漱石・柳原極堂・生誕150周年」、「明治維新から150年」等、各テーマを元に、地域の方々と作り上げる企画・公演を重ねている。
2019年秋より、愛媛・伊予観光大使。また、愛媛新聞・コラム「四季録」、土曜日の執筆を半年間担当する。
これまでにピアノを上田和子、大空佳穂里、川島伸達、山本光世、ヴォルフガング・マンツ、ゴットフリード・へメッツベルガー、クリストファー・ヒンターフ―バ―、ミラーナ・チェルニャフスカ各氏に師事。室内楽を山口裕之、藤井一興、マリアレナ・フェルナンデス、テレーザ・レオポルト各氏、歌曲伴奏をシュテファン・マティアス・ラ―デマン氏に師事。
2009-2010ロータリー国際親善奨学生、よんでん海外留学奨学生。
ホームページ http://erikuroda.com