新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の歓心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。
地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。
「3、オンライン飲み会」
その時は、突然やってきた。
どんな時もコンサート会場に足を運んで下さり、何かと気にかけてご連絡くださる、とあるIT会社の社長さん。「これからオンライン飲み会をしよう。他も誘ってみる!」。鶴の一声で、関東組に加え静岡、そして途中大阪からの声も聴こえてくる飲み会が瞬く間に整った。いつものように「ルネッサーンス!」の掛け声で始まる、宴。グラスとグラスが重なり合う音が足りない。
食後のジャーキーにビール、焼き肉、ピザにワイン。シチュエーションもメニューも各々だ。それぞれの表情が画面にどんっとあって、その隙間に時折見えるそれらのお料理、飲み物、背景には閉じられたカーテン、壁にかけられたカレンダー。モニターを見つめつつ会話をしていると、再び物足りないなと探し始める、人の気配と、大勢の声の残響。しかしそれらにも次第に慣れが生じてきて、感覚が理解をする。
日本楽器(現・ヤマハ)のアンティーク家具が素晴らしく、昔家具職人を目指そうとしたけど断念したことがあるというお話。野外キャンプでは虫の集中攻撃をかわす為に、両端にランタンを置いて真ん中に光を集め、人はそこに寝る方法を取るというアウトドアのお話。それに呼応して、そういえば小さい頃、漁師さんをパパに持つご家庭と船に乗って島に遊びに行き、カキやウニを採って自然の中で食べたなあというお話。そして、今回大きく事態が変わることになってしまったら、田舎で鶏を飼うのもいいな…という、お話。
自粛生活もまだ半ば。会話を通じ、消化しきれない感情が一部、感慨深く残る。私にとって初めてのオンライン飲み会は、ちゃんと盛り上がり成り立ったようだ。
翌朝確認した睡眠アプリには久しぶりに、100パーセント近い快眠記録が記されていた。
いつも舞台で演奏した日はアドレナリンが収まらず、眠れない。良い音楽に出会ったり、何かインスピレーションを得た時も眠れず、満月の夜も眠れない。自らの安眠とは、内に湧いてくるエネルギーに対して、消費するエネルギーが確実にそれに追いつき追い越せていることを意味する。
日頃の会食もきっと、私という人間にとってはエネルギー循環の大切な一要素なのだろう。オンライン飲み会は、そんなことも教えてくれたようだった。
新型コロナウイルスが猛威を振るうなか、その最初期から影響を被った職業のひとつが、芸術を生業とする人たちであった。音楽、絵画、演劇……。あらゆる創作活動は極めて個人的な営みである一方で、大衆の関心を獲得することができぬ限りは生活の糧として成立し得ない。そんな根源的とも言える「矛盾」が今、コロナ禍によって白日の下に晒されている。地域密着を旨とし、独自の音楽活動を続けてきたあるピアニストもまた、この「非日常」と向き合っている。実践の日々を綴った短期連載。
プロフィール
愛媛県、松山市に生まれる。
愛媛県立松山東高等学校、桐朋学園大学音楽学部演奏学科ピアノ科を卒業後、渡独。ヴォルフガング・マンツ教授の下、2006年・ニュルンベルク音楽大学を首席で卒業、続いてマイスターディプロムを取得する。その後オーストリアへ渡り更なる研鑽を積み、2014年帰国。
現在は関東を拠点に、ソロの他、NHK交響楽団、読売交響楽団メンバーとの室内楽、ピアニスト・高雄有希氏とのピアノデュオ等、国内外で演奏活動を行っている。
2018年、東京文化会館にてソロリサイタルを開催。2019年よりサロンコンサートシリーズを始め、いずれも好評を博す。
故郷のまちづくり・教育に音楽で携わる活動を継続的に行っている。
日本最古の温泉がある「道後」では、一遍上人生誕地・宝厳寺にて「再建チャリティーコンサート」、「落慶記念コンサート」、子規記念博物館にて「正岡子規・夏目漱石・柳原極堂・生誕150周年」、「明治維新から150年」等、各テーマを元に、地域の方々と作り上げる企画・公演を重ねている。
2019年秋より、愛媛・伊予観光大使。また、愛媛新聞・コラム「四季録」、土曜日の執筆を半年間担当する。
これまでにピアノを上田和子、大空佳穂里、川島伸達、山本光世、ヴォルフガング・マンツ、ゴットフリード・へメッツベルガー、クリストファー・ヒンターフ―バ―、ミラーナ・チェルニャフスカ各氏に師事。室内楽を山口裕之、藤井一興、マリアレナ・フェルナンデス、テレーザ・レオポルト各氏、歌曲伴奏をシュテファン・マティアス・ラ―デマン氏に師事。
2009-2010ロータリー国際親善奨学生、よんでん海外留学奨学生。
ホームページ http://erikuroda.com