2022年のセンバツを沸かせた好投手左腕
また、今大会は左腕投手の活躍も目立った。そのなかでも今大会No.1左腕と呼ばれているのが、連載第1回でも紹介した大阪桐蔭の1年生エース(新2年生)、前田悠伍。準々決勝の市立和歌山戦では6イニングを投げて12奪三振、被安打1と完璧に近いピッチングを見せた。相手バッターは、変化球を待てばストレートには振り遅れて、ストレートに合わせたら変化球は待ちきれないという様子が見受けられた。まさに高校球児では攻略法が不可能な、高い投球技術を持っているといっても過言ではないだろう。これまでの起用を見ても、大阪桐蔭は前田を温存して勝ち上がっているということもあり、準決勝・決勝はいいコンディションで望むことができるであろう。前田の優勝に導くピッチングに期待していきたい。
浦和学院を2015年以来のベスト4に導いた宮城誇南(みやぎこなん)もまた左腕投手である。彼もまだ1年生(新2年生)だが、昨年の夏からエースナンバーを背負い、今大会でも初戦から全3試合に先発し安定感のあるピッチングを披露している。
実は浦和学院がセンバツでベスト8以上に進んだ5回のうち、4回はエースが左腕投手だった年だ。
下記は、浦和学院がこれまでセンバツでベスト8まで勝ち上がった年と、各世代のエースの一覧である。
・2002年:須永英輝(ベスト8・左腕)
・2012年:佐藤拓也(ベスト8・右腕)
・2013年:小島和哉(優勝・左腕)
・2015年:江口奨理(ベスト4・左腕)
・2022年:宮城誇南(ベスト4・左腕)
優勝を果たした小島(現ロッテ)に続いてチームを優勝に導くことができるのか。宮城のピッチングに注目したい。
また、この浦和学院に敗れたものの、九州国際大付属の香西一希も好投をみせた。ヤクルトの石川雅規を彷彿とさせるコントロールと緩急を活かしたピッチングスタイルで、広陵、クラーク国際といった強豪校から勝ち星を挙げ、チームをベスト8に導いた。とくに、優勝候補同士の対決として注目度が高かった広陵との試合では、失点は初回の失策による1点のみ。1年生スラッガー真壁を擁する強力打線をしっかり抑えた。九州国際大付は広陵戦・浦和学院戦の初回こそ失策によるミスがあったものの、チーム全体としてもバランスが取れており、夏に向けて非常に期待できるチームだ。
最後に挙げるのは、鳴門の冨田遼弥だ。チームは1回戦で大阪桐蔭に敗れたものの、強力打線を相手にわずか3失点、8奪三振を奪うなど好投をみせた。根本的なチーム力自体にはかなりの差があったものの、大阪桐蔭打線を苦戦させた冨田の実力は今大会トップクラスといっていいだろう。
準決勝の見どころ
・近江対浦和学院
準決勝第1試合の近江対浦和学院は、1人のエースに頼っていないという点で、近江より浦和学院に分があるようにみえる。今大会の浦和学院は、エースの宮城のみならず、控え投手の浅田、金田も戦いながら成長しており、短期決戦に強いチームの勝ち方をしている。
逆に近江は、ここまで1人で投げ抜いてきたエース山田陽翔がどこまで持つのかが注目だ。同じく1人の投手に頼っていたワンマンチームの九州国際大付や市立和歌山はエースが力尽き準々決勝で敗退。さらに、山田はまだ怪我明けであるため、状態によっては2番手以降の投手も先発しなければならない可能性もある。かなり追い込まれた状況であることは確かだ。もし近江が有利になるとすれば、打撃戦に持ち込まれた場合だろう。このセンバツでは毎試合6点以上取っており、山田が出場出来なかった予選では、打撃力で勝ち上がった。浦和学院の総合力と、近江の打撃力の勝負になるだろう。
・大阪桐蔭対国学院久我山
第二試合の大阪桐蔭対国学院久我山は、大阪桐蔭が優勢だ。優勝候補筆頭のプレッシャーがありながら、初戦は鳴門の冨田を攻略して、準々決勝では大技で大勝。2回戦は対戦相手の広島商がチーム内で新型コロナウィルスの感染が発生したため、不戦勝となったが、大技小技問わず攻撃戦術を試しており、エースの前田以外の投手の登板機会の確保に成功した。とくに、初戦で先発をした控え投手の川原嗣貴が、このセンバツで覚醒をし、快投を続けていることは好材料だ。選手層の厚さも、ベスト4の中でダントツだろう。打撃陣は、大会タイ記録となる1試合6本塁打を記録していることもあり、乗りに乗っている。3番打者の主砲、松尾汐恩が不発なものの、1番の伊藤櫂人や2番の谷口勇人、さらに4番の丸山一喜と主将の星子天真が結果を出している。とくに、準々決勝で1イニング2本塁打の離れ業を成し遂げた伊藤の思い切りの良さと、高校野球のレベルとは思えないアベレージと長打力を兼ね備えた2番打者としていい活躍をしている谷口の1、2番コンビは相手にとっても大きな脅威になるだろう。また、丸山もここにきて非常に状態が良くなってなおかつ勝負強さがある。下位打線にいながらも初戦から打点をあげて一発も出た星子も、相手チームから見たら脅威だ。唯一懸念材料を挙げるとすれば、6本塁打も打ったことをきっかけに打線全体が大振りになることぐらいだ。
国学院久我山は、成田陸・渡辺建伸・松本慎之介の3投手を登板させながら勝ち上がってきた。先制点を取った上で、細かい継投でプレッシャーをかけられるかが肝になっていく。
今大会は、大阪桐蔭が、圧倒的な実力を見せている。これは、結果もそうだがスタメンの選手だけではなく、ベンチ入りの選手も身体の大きさが際立っっている。このコロナ禍で、ここまで仕上げてきたチームはほとんどいないだろう。
この大阪桐蔭がいる近畿地方は、毎年上位に食い込むレベルの高さを見せている。その結果として、こちらも優勝候補だった、京都国際の代役として出場した近江がベスト4にまで勝ち進んだ。ここまでレベルの高いエリアに、関東・東京の浦和学院・国学院久我山の2校が立ち向かう構図になった。長年圧倒的な強さを見せている近畿勢に勝利して、昨年の東海大相模に続き2年連続で関東の学校がセンバツの優勝を果たせるかが注目だ。
次回は3月31日(木)公開予定です。
100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。
プロフィール
野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。