データで読む高校野球 2022 第9回

甲子園「連覇」の戦略史①

ゴジキ

強力打線で21世紀初の春夏連覇まであと一歩だった2004年済美

次に見るのは、2004年の済美だ。この年の済美は、センバツで強力な打撃力によって勝ち上がり、悲願の初優勝を果たした。大会前の下馬評でも前年夏準優勝の東北と並び、優勝候補として挙げられていた。

下記が、2004年夏の甲子園の戦績と、主要選手の成績である。

・済美(2004年夏)大会戦績

決勝  :済美 10-13 駒大苫小牧

準決勝 :済美 5-2 千葉経大付

準々決勝:済美 2-1 中京大中京

3回戦  :済美 6-0 岩国

2回戦  :済美 11-8 秋田商

・打撃成績

8 甘井謙吾    打率.450  1本塁打  3打点

9 小松紘之    打率.476  1本塁打  7打点

3 水本武      打率.267  0本塁打  2打点

7 鵜久森淳志  打率.556  3本塁打  8打点

2 西田佳弘    打率.526  0本塁打  6打点

4 野間源生    打率.100  0本塁打  2打点

5 田坂僚馬    打率.400  0本塁打  4打点

6 新立和也    打率.313   0本塁打  1打点

1 福井優也    打率.467   0本塁打  1打点

チーム打率.390

・投手成績

福井優也  42回1/3  21奪三振  防御率4.04

藤村昌弘  1回2/3    1奪三振    防御率0.00

チーム防御率3.89

この成績を見ても鵜久森や甘井、小松、西田を中心とした強力打線で勝ち進んでいたことがわかる。

初戦からその打力は全国の舞台で発揮される。まず2回戦の秋田商との試合では、大会注目の好投手・佐藤剛士を相手に11得点を叩き出す。この試合での済美は、2年生エース福井が乱調で8失点(自責点6)を喫したものの、高校通算47本の強打者鵜久森が1ホーマー3打点と4番らしい打撃をしてエースの不調をカバーした。鵜久森はさらに岩国戦でもホームランを放ち、福井の完封勝利に貢献。逆に準々決勝は福井の力投により1失点に抑え、投手戦をサヨナラで制する。準決勝では再び鵜久森が大会通算3本塁打目を放ち、春夏連覇の目前まで導いた。しかし、この時には既に福井は疲労困憊していた。

決勝は済美と同じく強力打線を擁する駒大苫小牧との対決。両チーム合わせて23得点の乱打線を、福井から13点を奪った駒大苫小牧が制した。このような試合展開になったのは、福井が投げすぎたことが影響している。2004年の福井は甲子園で春夏合わせて1,062球(春558球・夏505球)を投げており、疲労が溜まっていることは誰の目にも明らかであった。しかし、福井が投げすぎたことによるもっとも大きな問題は、福井以外に長いイニングを投げられる2番手投手を育てることができなかったことだ。

歴代記録を塗り替えた強力打線で済美の春夏連覇を止めた駒大苫小牧

2004年の夏の駒大苫小牧は、済美と同等の打力を持ち合わせているうえ、投手陣には岩田聖司と鈴木康仁の両左腕にくわえ、翌年エースを担う松橋拓也、登板機会がなかった吉岡俊輔を含め4人の投手がいた。

下記が駒大苫小牧の2004年夏の主要選手の成績である。

・駒大苫小牧(2004年夏)大会戦績

決勝  :駒大苫小牧 13-10 済美

準決勝 :駒大苫小牧 10-8 東海大甲府

準々決勝:駒大苫小牧 6-1 横浜

3回戦  :駒大苫小牧 7-6 日大三

2回戦  :駒大苫小牧 7-3 佐世保実

・駒大苫小牧(2004年、夏)打撃成績

8 桑原佳之       打率.231  0本塁打  1打点

9 沢井義志       打率.478  1本塁打  6打点

4 林裕也         打率.556  1本塁打  8打点

7 原田勝也       打率.231  0本塁打  2打点

2 糸屋義典       打率.700  1本塁打  7打点

6 佐々木孝介     打率.429  0本塁打  7打点

3 桑島優         打率.556  0本塁打  2打点

1 岩田聖       打率.125  0本塁打   0打点

5 五十嵐大     打率.421  0本塁打  4打点

控え 鈴木康仁  打率.455  0本塁打  2打点

チーム打率.448(歴代1位)

・投手成績

岩田聖     21回2/3  25奪三振  防御率4.98

鈴木康仁   20回2/3  23奪三振  防御率5.66

松橋拓也    2回2/3  4奪三振   防御率10.13

チーム防御率5.60

打撃陣は全員の打率が3割以上ではないが、4割以上の打率を記録した選手が7人いた。くわえて、全試合で2桁安打を記録しており、チーム打率(.448)は歴代最高記録である。打線の中心にいた糸屋は、歴代最高となる大会通算打率7割はもちろんのこと、決勝戦であわよくばサイクルヒットを達成する勢いの活躍を見せた。この打力が目立っていた中で、失策もわずかに1。

岩田・鈴木の両左腕を中心とした投手陣は、成績だけで見ると防御率は5点台と高いが、どちらかが完投した試合は1試合もない。そのため、両投手が打たれても長いイニングを任せることができた。

戦績を見ると、3回戦で日大三に打ち勝ち、準々決勝の横浜戦では大会屈指の好投手と呼ばれた涌井秀章(現・東北楽天ゴールデンイーグルス)を攻略するなど、全国の名門を倒して勝ち上がった。このあたりから、メディアや甲子園の観客を味方につけていたのではないだろうか。

両チームともに2桁安打を記録した日大三戦での駒大苫小牧は攻撃に派手さはなかったものの、着実に得点を積み重ねた。一方の日大三は、守備のミスによって駒大苫小牧に点を与えてしまったうえに、打ち負ける結果となった。

準々決勝の横浜戦は、序盤から涌井を攻略。特に、当時2年生の林は先制ホームランを放ち、結果的にサイクルヒットも記録した。駒大苫小牧はこの試合でも18安打を記録しており、なかでもエースの涌井からは14安打を放った。先発の岩田も7回1失点の好投。優勝候補の横浜を下した。

準決勝の東海大甲府戦では、2年生の松橋が先発。東海大甲府もエースの佐野恵太ではなく、控えの岩倉亮が先発したため、序盤から乱打戦の展開だった。ただ駒大苫小牧はこの試合でも、いつもどおりの攻撃を見せる。ホームランはなかったものの、長短打と固い守備で試合を優位に進めて10得点を挙げ、勝利した。

駒大苫小牧は済美と比較して岩田・鈴木を中心とした複数枚の投手陣で勝ち上がってきたために、タフな乱打戦になればなるほど投手陣が粘りを発揮した。しかも、基本的なバントミスや守備のミスが少ないうえに、逆転できる打力もある。

まさに高校野球における「勝つための野球」が出来るチームであった。2004年の甲子園に出場した世代は、プロになれた選手が1人もいなかったものの、チームスポーツとして勝利に徹する完成された集団であったことは間違いないだろう。

済美の春夏連覇の夢を破った駒大苫小牧は、この翌年に林と五十嵐を中心とした固い守備陣と松橋・田中将大の2枚を揃えた投手陣を揃えて、夏の甲子園2連覇を達成することになる。逆に2005年の済美は、再び福井1人を中心に任せた結果、2回戦で姿を消した。たらればにはなるが、もし済美にイニングが稼げる2番手投手がいれば、2004年に春夏連覇を達成していたかもしれない。

この3校の比較からわかるように21世紀の高校野球において連覇を果たすためには、強力な打線と1人のエースがいるだけでは不十分であり、複数の投手を運用しながら勝ち上がる「継投戦略」が重要になってきたのである。

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データで読む高校野球 2022

100年以上にわたり、日本のスポーツにおいてトップクラスの注目度を誇る高校野球。新しいスター選手の登場、胸を熱くする名勝負、ダークホースの快進撃、そして制度に対する是非まで、あらゆる側面において「世間の関心ごと」を生み出してきた。それゆえに、感情論や印象論で語られがちな高校野球を、野球著述家のゴジキ氏がデータや戦略・戦術論、組織論で読み解いていく連載「データで読み解く高校野球 2022」。3月に6回にわたってお届けしたセンバツ編に続いて、8月は「夏の甲子園」の戦い方について様々な側面から分析していく。

関連書籍

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プロフィール

ゴジキ

野球著述家。 「REAL SPORTS」「THE DIGEST(Slugger)」 「本がすき。」「文春野球」等で、巨人軍や国際大会、高校野球の内容を中心に100本以上のコラムを執筆している。週刊プレイボーイやスポーツ報知などメディア取材多数。Yahoo!ニュース公式コメンテーターも担当。著書に『巨人軍解体新書』(光文社新書)、『東京五輪2020 「侍ジャパン」で振り返る奇跡の大会』(インプレスICE新書)、『坂本勇人論』(インプレスICE新書)、『アンチデータベースボール データ至上主義を超えた未来の野球論』(カンゼン)。

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