短期集中連載 ルポ 大阪府立西成高校<反貧困学習>の現場 第6回

「西成高校靴づくり部」誕生!「反貧困学習」はバージョン2でここまで進化した

黒川祥子

大人になった時に生きてくる学習

 2023年3月9日、西成高校の体育館で「西成高校エンパワフェスタ」が開催された。西成高校でこの1年学んだことをまとめて伝えることを通して、学習の進化をはかるイベントで、反貧困学習、インターンシップ、人権学習、進路活動、自立支援コース、そして靴づくり部(NSC)など、多様な学びを保証する西成高校の“カラフルな学び”が明らかとなる発表会だった。

西成高校エンパワフェスタで、靴づくり部も活動報告を行なった

 この場で1年生の代表は在校生と保護者、来賓の前で、「反貧困学習」の報告を行った。

 シングルマザーのこと、9つの政党に質問状を送ったこと、被差別部落への差別、西成差別、野宿者差別、そして釜ヶ崎については、前回取材に応じてくれた島津佑都くんが「ホームレスのおっちゃんたち、みんな、いい人やって。釜ヶ崎は怖くないんや。めっちゃ、住みやすい場所です」と堂々とアピールした。

 1年5組の担任2人は、「反貧困学習」をどう思っているのだろう。 

 授業を主導した中村優里(29)は、新任で西成高校に赴任して6年を迎えた家庭科教師だ。印象的だったのは「西成差別」の授業で、西成高校が揶揄される録画を見た後、生徒に向けて「みんな、西成やからって、言われたことない?」という声かけだった。普通なら身構えてしまう問いを、ふわっと自然体で投げかけることができるのは、飾らずありのままに生徒と向き合う中村だからこそと思えた。

1年5組担任、左が中根豊先生、右が中村優里先生。手で1と5を作ってくれた

 中村は生徒と一緒に、とにかく勉強したと振り返る。

「教科じゃないものも教えるんやって驚きました。肥下先生が作ってくれた資料を毎回、必死に勉強して。もともと勉強が苦手やから歴史とかもわからんし、それでも勉強しないと教えられない。質問された時に答えられなかったら困るし、噛み砕いて教えるためにも、生徒と一緒になって勉強しました」

 高校の教員になろうと思ったのは、自身の高校生活へのどうしようもない悔いからだった。志望校に入れず、行きたくもなかった私立で「めちゃくちゃ、とんがっていた」高校時代。教師に反抗し、体育祭も文化祭も一切、関わることはしなかった。しかし高2の春、背中に側湾症があることが発覚して手術をすることとなり、手術後は歩くこともできず、高3の4月には椅子に座っていることも難しい状態となった。体育は、一切禁止とされた。

「できひんようになってから、気づくことってあって。もっと、できる時にやっておけばよかったなって。病気になっていろんなことができなくなった時に、高校の先生になりたいなって思いました。自分の高校生活には後悔しかなかったので、そうならないように伝えたいって思って」

 教員には珍しく、勉強が嫌いだと言い切る。塾に行かされ、「なんで、こんなのもできひんの?」と責められたことは、大きなコンプレックスとなった。

「だから、『なんで、こんなにできひんねん?』とか、『さっきも言ったやろ』とは、絶対に言わんとこうと思っています。自分が傷ついたことは、言わんようにしていますね」

 西成高校に赴任して強烈に感じたのは、生徒たちに「めっちゃ、生きる力がある」ことだった。自分は今まで何も知らないで、親にやってもらうだけだったことに気が付いた。

 初めて教えた「反貧困学習」。15歳の子に社会問題を教えることの難しさと向き合うこととなったが、生徒たちが自分できちんと考える姿と、生徒たち同士の教え合いに触れることができた。

「島津くんとかが、『釜ヶ崎はこうなんやで』って、知らない子に教えるとか、こういうのがいいなって思いました。みんな一生懸命に考えて、これが自分の意見だって言えるのがすごいなーと。いろんな考え方ができる大人になるための学習だと思います。いろんなことを知って生きて行く方がいいし、あの子たちが大人になった時、差別とかしない大人になるというか。素直さとか、偏見の無さとか、生徒たちから、私もすごく学ばせてもらいました」
 
 もう一人の担任、中根豊(63)は、59歳で西成高校に赴任して4年目、毎年、一番大変だと言われる1年生の担任を持っている。教員になろうと思ったのは小学2年で始めた剣道で教える機会があったこと、高1でボーイスカウトのリーダーを任された経験から、「教えることが好きだ」と思えたからだった。

「西成高校でも担任を持って、それがもう好きでね。クラスにほとんどおりましたね。始業の30分以上前から、ずっと教室におって」

 ヤングケアラーの学習で、ドラマ『生徒が人生をやり直せる学校』の動画を観た際、中根が号泣して教室を飛び出したのは、担任として初めて持った生徒とドラマの状況があまりに酷似していたからだった。母子家庭の母が自殺して天涯孤独の身になったことも、一緒にラーメンを食べたことも。

「あの子のことも、朝から教室で学校に来るのを待ってました。とにかく心配で、支えてやらんと。ここでは中学まで不登校の子も半分ぐらい、いてますから、その子らがちょっとでも学校に来れたら、楽しいことをさせてやりたいなと思いますね」

 他校にいた時、「一番怖い先生と一番優しい先生」のアンケートで、両方同時に1位を取ったことがある。

「僕は、優しく言うんです。『あかんで。ちゃんとやってくれへんか』って。舐める子がおったら、そこで怒る。生徒らは『あっ、中根、舐めたらあかんで』と、今では1年生のみんな、知ってます」

 2学期にインタビューした島津佑都くんは、中根のことを「お父さんのように優しい」と話した。「だから俺らも、お父さんのように接している」と。

 中根にとって、「反貧困学習」はどのようなものとして映ったのだろう。

「最初は、割と変わったことをするなという感じで見てましたが、シングルマザーの学習があった時に、いいなと思いました。彼らはひとり親が多いですし、低賃金であるとか、母親たちの大変な状況を教えて行くのはええことやと。普通は、そういう授業はないですから。ただ感想を書く時間は、倍以上は欲しいと思いました。それだけの時間があったら、あの子ら、ちゃんと書けますから。多分、1年間ではわからないと思うんです。2、3年生になって、だんだん、後からわかって行く。この学習は、ええことと思いますね。彼らが大きいなって、自分の子どもができたりしたら、またそれを教えていけると思いますので」

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 第5回

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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「西成高校靴づくり部」誕生!「反貧困学習」はバージョン2でここまで進化した