短期集中連載 ルポ 大阪府立西成高校<反貧困学習>の現場 第6回

「西成高校靴づくり部」誕生!「反貧困学習」はバージョン2でここまで進化した

黒川祥子

靴を作るということ

 毎週金曜の午後、西成製靴塾は「NSC」の活動場所となる。部員は全員1年生、吉田天空くん、竹田智輝くん、峯聖也くんの3人だ。2回のワークショップを経験し、面白そうと入部、NSCの1期生となった。靴づくりを指導する、大山は言う。

「最初はゆっくり、じわじわ教えようと思ったんだけど、3月22日の展示に出すことが決まっちゃったんで、みんなに、『ごめん、いきなり作ろう』って」

 訪ねたのは、3月22日の10日ほど前のことだった。智輝くんが作る茶色のローファーは、底づけの作業に入るところだった。聖也くんが作るのは黒のロックなブーツ、縫製作業でミシンを慎重にかけている。天空くんは2人より遅れて、型紙ができたところ。これから皮を選び、型紙通りに切って行く。

靴づくり部3人、それぞれの作業に没頭する

 どの作業も緻密さと正確さが要求され、傍目にもどれだけ大変かと思う。生徒たちは黙々と作業に没頭し、その都度、大山に指導を仰ぐ。

「大丈夫、大丈夫、完璧。うわあ、めっちゃ、うまいやん」

 大山が、目を輝かす。智輝くんも聖也くんもニヤリとうれしそうに笑い、また作業に戻って行く。

「教えたら、彼ら、スポンジのように吸収して行く。僕がやったのをそのままストレートに、どんどん進めて行く。彼らの再現力の高さに驚いています。『こういうふうに、すんでんね』と言えば、『はい、わかりました』ってそのままする。教えながら、僕、その姿勢ややり方を見て、逆に学んでいます。彼らはね、やっぱり新しい発想なんです。だから、僕らが教わってるんです。16歳が作る靴って、もう、夢しかないでしょう?」

 鶴見橋商店街には、引退した靴職人も多い。工房の前を通りかかれば、「なんや、子どもが靴を作っている」と覗きに来る。そして、大山と笑いながらのやりとりがしょっちゅう生まれる。

「めちゃくちゃ、ええことしてるやん。俺、もう引退してるから、なんか、手伝えることあったら言うて」

「ちょっと、お酒くさいから、それ絶ってもらってから、来てもらっていいですか」

 向かいの八百屋からは、果物の差し入れもある。

「子どもたち、これ、なんか、食べや」

 西成に今も残る人情を背中に感じながら、3人は靴づくりに没頭する。大山には西成製靴塾のこの場が、生徒たちにとっての居場所になってほしいという思いがある。

「家に帰りたくないと思った時でも、ここが彼らに寄り添う場所になってくれれば。ここで靴作りをしていると嫌なことも忘れるし、何より感謝の気持ちが芽生えてくる。ゼロから靴に仕上がる喜びとか、打ち込めることとか、何かのきっかけとなる場所であったらええかなって」

 もちろん、靴作りには尽きない面白さがある。

「無限なんですよ、デザインが。ここにいるメンバーに同じ靴を作れって言っても、全部、違う靴になる。それぞれの見方、考え方があるから一緒の靴ができない。だから、それでいい。それぞれの個性という宝物を大事にして作っていけば、靴に魂が宿る」

 靴づくりを始めてまだ2ヶ月ちょっとの彼らも、おそらく靴づくりの面白さを感じている。ゼロから靴という形にして行くこと。それも、世界に一つだけの自分の靴を作るということ。

 2023年3月22日、東京。有楽町駅前にある「阪急メンズ東京」5階の展示スペースで、「シューズ アカデミー」が開かれた。靴作りを学んだ学生による、卒業作品を展示する企画だ。

「東京都立城東職業能力開発センター」、「文化服装学院」、「ヒコ・みづのジュエリーカレッジ」、「エスペランサ学院」において1年も2年も靴作りを学んだ学生の展示の中に、靴を作ってわずか2ヶ月、西成高校靴づくり部(NSC)の靴が1足ずつ展示された。

 竹田智輝くんの茶色のローファーと、峯聖也くんの黒のブーツ。凝りに凝ったデザイン性の高い靴が並ぶ中、シンプルなローファーとロックなブーツは、堂々とその個性を放っていた。

「シューズ アカデミー」に展示された、西成高校靴づくり部の作品。
左のローファーが竹田智輝くん、右のブーツが峯聖也くん製作

 智輝くんのローファーには、緑のブローチが付けられ、シックなローファーに可愛らしいアクセントが加わっていた。

「自分がモチーフにした靴に飾りがあるので、オリジナルでブローチを付けたら、ワンポイントでここまで変わるのかって思った。ここに出すことを聞いた時は本当にびっくりしたけど、全国で靴を作っている人の作品展の一角に僕らの靴があって、なんか見劣りしない。これって、自画自賛しすぎかな? 2作目はローファーじゃなくて、少し変えたものにしようかな。バリエーションがいろいろあるから、これからすごく楽しみ。毎年、ここに出せたらって夢がある」

竹田智輝くん

 聖也くんは、イカツイ黒のブーツを作った。

「最初のデザインが難しかった。ブーツが好きだから、ロックなものにしたくて。靴を作るって、ミシンとか、一つ一つが大変だけど楽しい。想像力も大事だし、もっとやっていこうと思う。失敗したところがあるから、それは次に生かして。次はもっと、ゴツい靴を作りたい。これは自慢できる。学校に履いていきたい」

峯聖也くん

 2人の靴作りを見守ってきた大山も喜びを隠さない。

「凄すぎます。まず、2人が初めて作った靴の完成度の高さ。彼らに伝えてきたのはいつも心を込めて、感謝の気持ちを込めて作っていかないと、最後に残念な靴が出来上がると。彼らの靴には思いがめっちゃ、入っている。思いが伝わる靴になっている。靴を作っている時の彼らの顔を見ると、最高の笑顔をしている。教えながら、16歳から学ばせてもらっています」

 西成製靴塾という場は、彼らにとって家でも学校でもない、大事な居場所となっている。

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 第5回

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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