短期集中連載 ルポ 大阪府立西成高校<反貧困学習>の現場 第6回

「西成高校靴づくり部」誕生!「反貧困学習」はバージョン2でここまで進化した

黒川祥子

1年目を終えて

 <反貧困学習バージョン2>の1年間の授業を、この学習を主導した肥下彰男は振り返る。

「自分が思い描いたような“対話”を重視した学習になったのは、良かったと思います。シングルマザーの学習とか当事者の子だからこその視点があり、一方、同じクラスで学んでいる子が当事者の子の想いに触れることによって、今、日本社会が抱えている課題に気づいて、こうしたほうがいいんじゃないかと、ちょっと違う社会のあり方を探し始めるきっかけとなった学習ができたかなと思いますね」

肥下彰男先生

 生徒たちはなぜ、自己責任論に流れることはなかったのだろう。あまりにも自己責任論に溢れている「今」だからこそ、毎回、驚きだった。

「彼らはネットの影響をすごく受けているし、ひろゆき的な人に憧れる子たちは多いのですが、1学期の最初から、国民の生活を最低限保障するのは社会の責任であるということや、基本的人権の学習を結構やってきたから、自己責任論にはいかなかったのかなと思います。これが、たとえば西成差別などを抽象的な平等論で語ってしまうと、そちらへ絡め取られる要素となったかもしれません」

 生徒たちは他人事ではない、自分に直結するものとして、さまざまな社会問題について向き合い、考えてきた。

「差別の問題もそうですが、いろいろな社会問題を考えて行く中で、許せないことについては怒りを持てるということ。同時に、その人たちが持っている価値観に対してはリスペクトできるということ。この大事な2つがあって、たとえば、この靴づくり部では西成にこの産業があることを誇りに思って、彼らは靴を作っている。もう、ここが彼らの居場所となっているわけですから」

 抽象的な“お勉強”ではなく、自分と地続きの問題として、15歳が初めて向き合った日本社会のさまざまな課題。教室の片隅で毎回、目の当たりにしたのは、理不尽なことへの真っ当な怒りと、当事者の思いに真剣に向き合おうとする真っ直ぐな眼差しだった。シングルマザーとして、自己責任論に傷つけられてきた当事者である我が身にとってはうれしい発見であったと同時に、生徒たち自身が社会のさまざまな問題を自ら考える、“主体”となって行くありようにも触れることができた。

 貧困の連鎖を断つ、今までにない手法に“希望”の一端を見た思いだ。

 取材・文・撮影/黒川祥子

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 第5回

プロフィール

黒川祥子
東京女子大学史学科卒業。弁護士秘書、業界紙記者を経てフリーに。主に家族や子どもの問題を中心に、取材・執筆活動を行う。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待~その後の子どもたち』(集英社)で、第11回開高健ノンフィクション賞受賞。他の著作に『子宮頸がんワクチン、副反応と闘う少女とその母たち』(集英社)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)、橘由歩の筆名で『身内の犯行』(新潮社)など。息子2人をもつシングルマザー。
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「西成高校靴づくり部」誕生!「反貧困学習」はバージョン2でここまで進化した