ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
足の裏にシミができたよという話です。
いや、けっこうそれなりにショックを受けておりまして、だってシミだよ? わたしの可愛い可愛い足裏に、シミ!!!! 毎日気をつけて見ていたつもりだったけれど、朝起きたら、なんか5mmくらいのやつができていた。顔だったら「あれ? 日焼けしちゃったかな〜」で済んでいたかもしれませんが、身体の中で最も日焼けしない部位と言っても過言ではない足裏に、突然のシミ。抗がん剤の副作用以外の何物でもないです。いやいや、寝ている間は反則じゃん。
しかも、さらに不穏なことに、右手の親指にもぼわっとした薄いシミのような模様が3つほどできている。いきなり3つも?! どういうこと!! 抗がん剤の副作用、本当に侮れない。どうやらこれは、点滴薬のオキサリプラチンではなく、カペシタビンという内服薬のほうの副作用らしい。服用を始めてたったの1週間でこれだから、シミはこれからどんどん増えて、そして濃くなっていくだろう。それをわかり切った上で、わたしは目の前にあるカペシタビンを今日も10錠も飲まないといけない。嫌だ。すごく嫌だ。嫌すぎる。
何をシミくらいで、しかも足裏や指の、とお笑いになるかもしれませんが、ステージ3を告知されても「やば〜」とか言ってヘラヘラしていたかわむらがあの日唯一泣いたのは、副作用で皮膚が変色した写真を見せられたときだからね! それくらいやなの! わーん!!!!
見た目に現れる副作用でいうと、それこそ抗がん剤の副作用の代表的なイメージとしてある髪の脱毛は、メンタルを直撃する最たる例なのかもしれない。わたしは今のところ脱毛はなくて、そもそもCAPOX療法自体に脱毛の副作用はあまり見られないらしいのだけれど、それでも確率がゼロじゃない以上、最低限の備えはしている。ヘアメイクの仕事をしている友だちからウィッグのおすすめ情報をもらったり、区の助成金について調べてみたり。
ウィッグの購入助成金は、市区町村によって金額が異なる。制度自体を設けていない自治体も多い。受給のためにわざわざ引っ越すほどの額ではないので、いわゆる「住んでいるところガチャ」のような性質がある。それでも、一部の自治体が「がん患者のウィッグ購入が助成に値するものである」と判断していることは事実だ。ウィッグをつけても、寿命は延びも縮みもしない。それでも、ウィッグは「必要なもの」なのだ。決して少なくはない数の人が、生きるために脱毛の副作用がある抗がん剤治療に挑み、見た目の変化に傷つきながらもがんと闘っている。その胸中を一体どうやって理解できよう。せめて寄り添える人になれたら。誰かにも、そうなったときの自分にも。闘う人に「あなたがウィッグを欲しいなら、それは、あなたにとって必要なものだ」と語りかける制度の存在そのものを、わたしは人の優しさだと思う。
あとは、美容師さんにウィッグのカットをしてもらえるかについても確認してみた。ウィッグは髪の毛と違って伸びない、つまりやり直しが利かないから、カットに引け目を感じる美容師さんも少なくないらしい。まあそりゃそうだよね……。ウィッグの価格って本当にピンキリで、2、3万円程度で買えるものもあれば、医療用の人毛ウィッグだと10万円以上するものもあるという。万が一の失敗を考えると、美容師さんも気が進まないのが本音だろう。それでも、今わたしの髪を切ってくれている若い美容師さんは、ウィッグのカットを快諾してくれた。彼女は、わたしががんになってオストメイトとして転生したことを知っている。ウィッグのカットは現時点では「もしもの話」だけれど、わたしはまた一人味方が増えたように感じられて、なんだか心が温かくなった。たくさんの人が、その人が無理なくできることで、わたしの闘病を支えてくれている。
だから、わたしはたかだかシミくらいでしょんぼりしているわけにはいかない。いかない……かなぁ? いかなくなくない? それはそれ、これはこれ。わたしがわたしの「嫌」を大切にしないで、一体誰がするというのだ。それにしても、まさかシミ対策美容液のメラノCCを、変な体勢で足裏に垂らす日が訪れようとは思ってもいなかったです。これも人生……。
(毎週金曜更新♡次回は2月14日公開)
ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
プロフィール
ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。