ある日、いきなり大腸がんと診断され、オストメイトになった39歳のライターが綴る日々。笑いながら泣けて、泣きながら学べる新感覚の闘病エッセイ。
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がんがわかってストーマを造設して、早1ヶ月半。人の適応力って本当にすごくて、あんなに嫌だなぁと思っていたストーマも、今では眺めて楽しめるまでには神経が図太くなりました。
ご存じですか? ストーマって、めちゃくちゃ動くんですよ。たぶん皆さまの想像の7倍は動く。「動き回る」という表現のほうが合っているんじゃないかってくらい。わたしの動作……たとえば体勢を変えたり、お腹に力を入れたりとかはあんまり関係ないみたいで、ただただ勝手に動いている。伸びたり、大きくなったりもする。たぶんそろそろお出かけとかしだすと思う。
ストーマをポジティブに捉えられるようになったのは、腸閉塞による再入院を経てからのこと。それまでは、やっぱりネガティブな感情のほうが強かった気がしてならない。でも、入院中にぐったりと動かなくなったストーマを見て、いつもがんばってわたしを支えてくれていたんだ……という、感謝にも似た気持ちがぶわっと溢れた。それからは大切にしている。ごめんね金玉、いつもありがと。
今では、家でだらりと過ごしているときに、ストーマを包むパウチの上からツンとつついたり、軽く撫でたりするようにもなった。刺激を受けてひょいひょいと動く姿は、とてもファニーで、見ていて飽きない。何もする気が起きないときは、よくストーマのダンスを眺めて過ごしている。水族館に行くと、チンアナゴの水槽の前で無心になっている人に遭遇することがあるけれど、今なら彼らの気持ちがわかる。チンアナゴとストーマはちょっと似ている。動きとか、何も考えていなさそうなところとか。
わたしのストーマは、お腹から腸が2つ出ているスペシャル金玉エディション、もとい双孔式ストーマなので、わたしから見て左のほうが元気で調子に乗りがち、右のほうが控えめでおしとやかと、性格の違いまで楽しめてお得。
最近ではポジティブが過ぎて「お腹から腸が2つも出てるのちょっとイケてるな〜」と思うときすらある。わたしほど自慢げにヘルプマークをぶら下げている人もなかなかいない。今のところ、半年後には元の身体に戻る予定ではあるけれど、もし何かしらの事情でストーマを閉鎖できないことになっても、そっか〜、で終わるかもしれない。わたしの感情。いや、さすがにそれはないか? でも、ひょっとすると。
昨日は軽く腸閉塞気味で、じわりとした腹痛と共に一日を過ごした。お腹は空いていたけれど、ここで食べると本格的に腸が詰まってまた病院送りになってしまうので、ヨーグルトとゼリー飲料、スープ、お茶でなんとか一日を持ち堪えた。あとは、仕事をしてはストーマの様子を見ての繰り返し。ストーマは、なんだか見たこともないL字のような形で固まっていて、何それ? と思わず何度か笑ってしまった。いつでもストーマを観察できるように、わたしは家ではパウチを服の外に出しっぱなしで過ごしていて、それができるのは一人暮らしかつリモートワークの特権だと思っている。万が一Webミーティング中に映り込んだら大事故だけれど。下半身を見られてはいけないという点においては、上はスーツ、下はパンツ一丁でWebミーティングに参加している人と大差ないかもしれない。わたしは上はTシャツ、下は金玉 on the ショートパンツのスタイルです。
強制ダイエットの甲斐あって、今日は朝からしっかり元気。ストーマもまた動き出すようになった。ストーマがだらんとしているときも、ふよふよダンスが見たくて、つい、つついて起こしてしまう。趣味はストーマとたわむれることです。あと、最近はよく一緒にNetflixを観ている。「金玉はどう思う〜?」とか言って。せっかく外の世界に出てきてくれた金玉に、いろんなものを見せてあげようと思っているのです。いわゆる情操教育的な……? わたしは一体何を言っているのでしょう。本当に、慣れってすごいね。
(毎週金曜更新♡次回は2月28日公開)
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写真は、先日寄った渋谷の東急フードショー帰り、「金子半之助」の上天丼弁当嬉しいな、の図。弱った腸には申し訳ないけれど、たまには油ものが食べたくて……。1300円? 400円? くらいしたけれど、昼、夜に分けてゆっくり味わったのでよしとする。食が細くなったので食費はかなり抑えられているし、昨日のような軽い腸詰まりによるダイエットを何度か繰り返しているせいか、がんになってから減った体重は一向に戻る気配がない。いいんだか悪いんだか。
プロフィール
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ライター
1985年生、都内在住。2024年5月にステージⅢcの大腸がん(S状結腸がん)が判明し、現在は標準治療にて抗がん剤治療中。また、一時的ストーマを有するオストメイトとして生活している。日本酒と寿司とマクドナルドのポテトが好き。早くこのあたりに著書を書き連ねたい。