平成消しずみクラブ 第3回

紫陽花は咲いていたのか

大竹まこと

 次の日の夜、仕事を終えて、家に帰ると、都議選の速報が流れていた。
 予想を超えて、小池百合子さんの新党「都民ファーストの会」が票を伸ばし、自民党は大きく負けていた。
 公明党は安定していたが、民進党は数を減らした。共産党は躍進した。
 しかし、これは都政だけで票が動いた結果ではないと皆知っている。
 獣医学部新設をめぐる問題で、地元に選挙区のある自民党の村上誠一郎元行政改革担当相(衆院愛媛2区)も現政権について、七月十五日の東京新聞朝刊でインタビューに答えている。
「今(いま)治(ばり)市は一般会計で九百億円近い借金がある。『第二の夕張』になりかねないのに、なぜ百億円も『濡れ手で粟(あわ)』で差し出さなければいけないのか」と、そして都議選の大敗は、「政権がやっていることは間違っているのではないか、という世論が如実に表れた」。氏の言葉はもっと厳しく続くのだが、ここでは割愛しよう。

 憲法学者の木村草太さんは、七月から施行された共謀罪(テロ等準備罪)に強く反対している。
 共謀罪、私はよくわからんが、表現の自由の幅が狭くなるのは息苦しい。
 よくわからないと弁護士の角(すみ)田(だ)龍平さんにラジオの生本番で尋ねたら、テロ等準備罪をエロ等準備罪であると仮定すれば、わかりやすいと答えてくれた。
 つまり、「エロ等準備があると仮定した場合、女性と性交もしくは性交類似行為ができたらなあーと友人に話した後、ATMで食事代をおろせば罰せられる可能性」と話してくれた。

 私は期日前投票を済ませたが、正直、四十代前半まで投票には行かなかった。
 二人目の子供が生まれ、その前後はTVタックルが始まった。その頃から、投票に行くようになった。
 番組では徐々に政治の話題が多くなり、義務を果たさずに番組で語ることができなくなったからだ。
 しかし、その後、消えた年金問題が起こり、忘れもしない3・11の東日本大震災。福島の原発事故。六年以上たった今でも、そこには誰も住めないし、誰も戻れない。朽ちた家と採っても食べることのできない柿の実がなっている。
 選挙は我々の権利だと思うようになった。
 今回は選挙に行ったと、投票は義務でもあり権利でもあると書きたかったのだが、あまり真意は伝わらなかったかもしれない。
 選挙に行ったところで、死に票になるかもしれないしね。
 しかし、やっぱり、私は選挙に行くと決めた。K駅の町は老人ばかりであったし、これから日本はとんでもない時代になるだろう。分母が減って、分子が増えるからだ。
 若い人たちが年寄りを支えなければならない。
 社会保障の金額が大幅に増える。なのに、日銀は、六回目の量的緩和を行う。
 本当に大丈夫なのか。
 今までのルールも変わるかもしれない。
 今年、紫陽花を見ることはできなかったが、たぶん、紫陽花は咲いていたのだろう。誰かの塀の陰に、もしくは生い茂った雑草に埋もれて。
 私の一票も、それと同じで何の役にも立たずとも、年寄りは若い人のために投票に行くのだ。

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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紫陽花は咲いていたのか