平成消しずみクラブ 第4回

炎上

大竹まこと

 現代は、不寛容の時代だという。社会学者の西田亮介さんは、その著作『不寛容の本質』の中で、税収がバブル期の水準にもかかわらず豊かさを感じない、生活者は経済的に裕福になっていないのは明らかだろう、と述べている。
 また、西田氏は、その本の中で、NHKのアンケートを取り上げ、「今の日本の社会について、どう思いますか」という質問に対して、「心にゆとりを持ちにくい社会だ」に「そう思う」と答えた人が62%もいたと記している。
 本の帯には「なぜ、こんなにも息苦しいのか?」とある。

 一昔前のテレビは、棲み分けができていた。
『11PM』は大人の観る番組で、子どもはこっそり観て親に叱られた。『時間ですよ』はコメディドラマであったが、毎度、風呂屋の入浴シーンがつきものだった。あの女風呂に若者たちの心や身体がどれだけ癒されたことか。
 正月には、志村けんさんが毎年恒例で人間スゴロクをしていた。サイコロを転がして、出た目によっては老婆と混浴したりしていた。腹を抱えて笑った。
 上岡龍太郎さんと島田紳助さんは、生放送で全裸の女性の股の間に座ってトーク番組を展開していた。ちょっとでも顔を動かしたら、女性の局部が映ってしまう。上岡さんは「あの後、本当に首が固まった」と笑っていらした。
 俗悪番組とレッテルを貼られても、なお番組は続いたのである。
 たぶん、今はそうはいかない。
 こんなことを書くと、私のような年寄りは、すぐに昔はよかったと言うと思われそうだが、そうではない。
 今のネットとテレビは、区分けができているようで、実は地続きではないのか、と思うのだ。
 私はネットが悪いとは思っていない。
 誰もが自由に発言できるし、発信もできる。ネットでブログなるものをやっていた、作家の燃え殻さんは、その文章が読者の心を惹きつけ、ある日、某社の編集者の目に留まる。そして、すぐに本を書いてみたらと言われて、『ボクたちはみんな大人になれなかった』という小説ができた。とてもよい。
 私は、マネージャーのI君に言われて、ツイッターなるものを始めてみたが、どうもしっくりこない。他のタレントや作家は、公演のお知らせなどに利用しているらしいが、なぜか、私はダメなのだ。
 そのツイッターが、ある日、突然、炎上する。私には、その意味さえわからない。
 ただ、ツイッターの文言にあることは、一面、真実だとも思う。
「老害は死ネ」とわざわざ言われなくても、もう仕事もさほど多くないし、コメディアンとは、その時代と添い寝した男(女)たちのことだと思っている。持論である。
 時代から少しでもずれたら勝手に死んでいくだけである。
 そろそろ、そんな局面がきたのかなあと思う。
 いつまでもウジウジとテレビなどに出ていたくはない。
 しかし、「また、あのジジィがやりやがったな、ちくしょう!」とも言われてみたい。
 心底、庶民の側に立っていたいとの気持ちでやってきたが、全世界を敵に回したい欲望にもかられる今日である。
 さて、今回の作文は、貴方にどう受け止められるのだろうか。
 まあ、どっちでもいいんだけれど。

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平成消しずみクラブ

連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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