平成消しずみクラブ 第8回

銀杏

大竹まこと

 ラジオの仕事を始めて十一年。何年もの間、ここは私の安らぎの場所であった。
 あるテレビ番組で、都会の子どもたちに未来の都市を描かせるというものがあった。
 私たちもかつてそんな絵を描かされた。手塚治虫の未来都市にならって、宙を走る車などを描いたが、今は違う。今の子どもは皆一様に、緑いっぱいの都市を描くという。
 私の家の近所は、まだ緑なども残っていたが、通るたびに、建物の工事が始まっている。老人ホームが建つのだという。
 しかし、問題はここで終わらない。
 話は先ほどのインスタグラムに戻る。
 なぜ皆、こぞってSNSにはまるのか。
 一九五九年生まれの社会学者、宮台真司さんは朝日新聞に「『空虚な承認』わきまえて」というタイトルの記事で、インタビューに答えている。
「インスタ映え」の現象は、社会からの承認がほしいのに得られない、という不安の埋め合わせです、なぜなら、社会の承認のベースとなる仲間がいないからだ、と。
 学生たちは、ケンカもしないし、本音も言わない。
 表面的な損得勘定の付き合いでは仲間はできない、と厳しい。
 だから、不特定多数から「いいね!」を集められるフェイスブックやインスタグラムは、その埋め合わせとして都合が良い、と。
 稀代の社会学者の鋭い分析である。
 果たして、これは若者たちだけの現象であろうか?
 絵画館前にスマホを手に集まる人々の多くは、単に緑が恋しいだけではなかったかもしれない。
 私は、スマホはいまだに使えていない。ガラケーさえ、持て余している。
 しかし、下の世代は、皆スマホである。
 東京はオリンピックに向けて、着々と準備を進めている。株価も上がり、企業の業績も盛り返しているというが、そうなのだろうか。
 私の友人は、先月、職場をなくした。今は、外国人などを集めて労働者を仕事先に送り込むトラックに同乗している。週三日ぐらいしか、仕事が回ってこないとぼやく。その友人は、晩飯のラーメンと餃子とビールの写真を私に送ってくる。
 リアルな日常はつらいが、写真に撮って送れば、もう自虐的な笑い話である。

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連載では、シティボーイズのお話しはもちろん、現在も交流のある風間杜夫さんとの若き日々のエピソードなども。

プロフィール

大竹まこと

おおたけ・まこと 1949年東京都生まれ。東京大学教育学部附属中学校・高等学校卒業。1979年、友人だった斉木しげる、きたろうとともに『シティボーイズ』結成。不条理コントで東京のお笑いニューウェーブを牽引。現在、ラジオ『大竹まことゴールデンラジオ!』、テレビ『ビートたけしのTVタックル』他に出演。著書に『結論、思い出だけを抱いて死ぬのだ』等。

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