百田尚樹をぜんぶ読む 第9回

百田尚樹とテレビ的なものの問題

藤田直哉×杉田俊介
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ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家と文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

 

【杉田】たとえば近年、いちばんショックだったことの一つに、次のようなことがありました。僕の母親は今七〇代なんですけれども、かつて韓流ドラマブームの頃に韓国が好きになって、そこから韓国語や韓国文化を学ぶようになって、しょっちゅう一人で韓国に旅行に行ったりしていたんです。韓国人の友人や、韓国語仲間のネットワークができたりしまして。

 そんな母親が、ある時、友達からいい本を紹介してもらった、と言って持ってきたのが、ケント・ギルバートの嫌韓本だったんですよ。それがすごいショックでした。なんで韓国文化にこれだけ触れてきた人間がそうなってしまうのか。

   話を聞いてみると、一つの原因として、実際に韓国の人々との付き合いができると、ほとんどは良好な関係なんですが、たまにはやっぱり日本を批判する人もいるし、韓国の文化こそが日本文化の起源だとマウンティングされたりもする。そうすると、知識がないから反論や論駁もできないし、何年も経つうちに色々傷ついていたみたいなんですね。それに対して、傷を癒すというか、解毒のために、友達から紹介された嫌韓本を読んでいたようです。

Graphs / PIXTA(ピクスタ)

 

【藤田】久々に帰省したら親がネトウヨ化していた、という話もよく聞きますね。

 

【杉田】もう一点、それから、数年前に、排外主義的なものの滲透を身近に感じたことがありました。地元でバスに乗っていたら、わりと高齢の七〇代後半くらいのお婆さんたちが、結構大きな声で、ひたすら排外主義的な会話をしていたんです。

 自宅に来る外国人のヘルパーさんに何かを盗まれそうで怖いとか、近隣の駅前にアジアの人間が増えていて、日本人の純血が穢されそうとか、外国に領土や国土を侵犯されるのか怖いとか。

 興味深かったのは、自分が住む家と、駅前という地域と、国土という国家のレベルが、不思議とシームレスになっていて、話の次元がぽんぽん飛ぶんですね。ただ、いずれにしても、「家=地域=国」を外国から侵略されて、何かを「盗まれる」、あるいは「汚される」という恐怖感があるっぽい。ちょっと認知症の「物盗られ妄想」みたいな感じもあったんです。

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ベストセラー作家にして敏腕放送作家。そして「保守」論客。作品が、発言が、そしてその存在が、これ程までメディアを賑わせた人物がかつて存在しただろうか。「憂国の士」と担ぎ上げる者、排外主義者として蛇蝎の如く嫌う者、そして大多数の「何となく」その存在に触れた人々……。百田尚樹とは、何者か。しかしながら、その重要な手がかりであるはずの著作が論じられる機会、いわば「批評」される機会は思いのほか稀であった。気鋭の批評家、文芸評論家が全作品を徹底的に論じる。

関連書籍

非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か

プロフィール

藤田直哉×杉田俊介

 

藤田直哉
1983年生まれ。批評家。日本映画大学専任講師。東京工業大学社会理工学研究科価値システム専攻修了。博士(学術)。著書に『娯楽としての炎上』(南雲堂)、『虚構内存在:筒井康隆と〈新しい《生》の次元〉』、『シン・ゴジラ論』(いずれも作品社)、『新世紀ゾンビ論』(筑摩書房)などがある。朝日新聞で「ネット方面見聞録」連載中。文化と、科学と、インターネットと、政治とをクロスさせた論評が持ち味。

 

杉田俊介
1975年生まれ。批評家。自らのフリーター経験をもとに『フリーターにとって「自由」とは何か』(人文書院)を刊行するなど、ロスジェネ論壇に関わった。20代後半より10年ほど障害者支援に従事。著書に『非モテの品格 男にとって「弱さ」とは何か』(集英社新書)、『無能力批評』(大月書店)、『長渕剛論』『宇多田ヒカル論』(いずれも毎日新聞出版)、『ジョジョ論』『戦争と虚構』(いずれも作品社)、『安彦良和の戦争と平和』(中公新書ラクレ)など。

 
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