カマラ・ハリスを生んだアメリカ 第5回

アメリカ黒人史から読み解くカマラ・ハリス

津山恵子(つやま・けいこ)

南北戦争から公民権運動、そして現在へ

1966年8月22日付のニューズウィーク誌。黒人と白人の意識の違いや黒人の葛藤についての特集が掲載された。(著者私物)

 日本で教わる黒人がらみの歴史的事件としては、南北戦争と、1960年代に黒人の人権を主張した公民権運動の2つがすぐに思い浮かぶ。マーティン・ルーサー・キング牧師の演説は、英語の教材としてもよく知られている。

 しかし、南北戦争と公民権運動、そして現在との間には、どのような流れや変化があったのだろうか。

 

 タルサ人種虐殺は、南北戦争と公民権運動のちょうど間(はざま) である1921年に起きた。つまり、南北戦争による「奴隷解放」は、白人と100%同じ自由や人間としての権利を黒人に与えた訳ではなかった。

 1866年公民権法と、1870年に認められた黒人の投票権は、南北戦争から数年後には骨抜きにされた。公民権法の執行は主に地方政府、つまり州が行っていたため、南部諸州では、白人によって黒人の権利が隷属時代の状態に押し戻されたからだ。

 

 その最たる例が、1870年代から1960年代まで南部諸州で制度化された人種隔離政策「ジム・クロウ法」である。

「具体的には、公立学校、病院、待合室、電話ボックス、レストランにおける白人と黒人の隔離された『平等な』座席配置として実行された」(『アメリカ黒人史――奴隷制からBLMまで』ジェームス・M・バーダマン/森本豊富〈訳〉、筑摩書房刊)という。が、要するに黒人の側にはいたくないという白人の差別意識に寄った制度だった。

 タルサのブラック・ウォール・ストリートがなぜ形成されたのか。それは、生活がジム・クロウによって「隔離」されていたゆえ、黒人オンリーに向けた経済とインフラが白人社会から分離して発展を遂げたからだ。しかし、その繁栄も「隔離」や「リンチ」に慣れきった白人には面白くない存在だったようで、街全体をリンチし、消滅させた。

 タルサ人種虐殺がアメリカ史から抹消されたため、黒人史の道標は1950〜1960年代の公民権運動を待たなくてはならない。

 発端は1955年12月、南部アラバマ州モンゴメリーの市営バスで起きた事件だ。

 ジム・クロウ法の影響は続き、バスの中では前方は白人席、後方は黒人席と決められていたが、その間の席は白人も黒人も座ることができた。しかし、白人席が満員の場合、黒人は中間席を譲らなければならなかった。黒人女性のローザ・パークスは、この中間席を白人に空けるように促されたが拒んだため、捕捕された。これがきっかけで、キング牧師らが立ち上がる公民権運動が始まる。

 

 公民権運動は、さまざまな事件や運動を巻き込んで全米に広がり、1964年、公民権法の制定にこぎつける。これは、19世紀末から黒人を縛り続けたジム・クロウ法の終焉を意味した。

 奇しくも同じ1964年生まれのカマラ・ハリスは、カリフォルニア州オークランドで、ほぼ初となる白人・黒人児童を統合した小学校に通った。つまり、19世紀末のジム・クロウ法は、彼女の子ども時代までその影を落としかねなかったことになる。公民権法の成立により、統合した学校に彼女が通うことができた意味は大きい。

 

 私の手元に、1966年8月22日付のニューズウィークがある。「黒人と白人(Black and White)」 と題した約40ページにわたる特集では、黒人と白人市民に対する調査をもとに人種問題に対する意識の乖離を浮き彫りにした。これを手にすると、「今でも大きな変化は訪れていないのかもしれない」という複雑な気分になる。なぜなら、人種差別問題は今日もニュースになり続けているからだ。

 

 私たちジャーナリストは、2020年 5月から、突如始まったブラック・ライブズ・マター(黒人の命は大切だ、BLM)運動について多くのルポや考察を書いてきた。2020年5月25日、中西部ミネソタ州ミネアポリスで、黒人男性ジョージ・フロイドが、元白人警官デレク・ショービンに膝で首を圧迫されて絶命した事件がきっかけだ。

 ニューズウィークの特集は、1960年代以来、いや、ずっと前から変わらない、黒人を虫けらのように殺害することを肯定する固定観念が、21世紀の今もあると痛感させる。

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 第4回
カマラ・ハリスを生んだアメリカ

女性として、黒人として、そしてアジア系として、初めての米国副大統領となったカマラ・ハリス。なぜこのことに意味があるのか、アメリカの女性に何が起きているのか――。在米ジャーナリストがリポートする。

プロフィール

津山恵子(つやま・けいこ)

ジャーナリスト、元共同通信社記者。米・ニューヨーク在住。2003年、ビジネスニュース特派員としてニューヨーク勤務。 06年、ニューヨークを拠点にフリーランスに転向。米国の経済、政治について「AERA」、「ビジネスインサイダー」などで執筆。近著に『現代アメリカ政治とメディア』(東洋経済新報社)がある。

 
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