中東から世界を見る視点 第1回

台頭するイランとシーア派

川上泰徳

シリアで交錯する、2つのジハード

 アサド政権支援でシリアに行っているのは、ヒズボラだけではない。2016年、アサド政権軍の侵攻によって反対派が支配していたシリア北部のアレッポ東部が陥落した時、レバノン、イラク、アフガニスタン、パキスタンなどから数千人のシーア派民兵が政権軍に加勢に来ていると報じられた。まさに、ナジャフの学院に学問を修めるために来ている宗教者の出身国と重なる。シリアで戦う各国の民兵を束ねているのは、イランの革命防衛隊である。

 シーア派ネットワークは国を超えて、各地のシーア派と連携するものだが、現在のネットワークはイランの革命防衛隊が主導しているため、イランのイスラム国家体制に縛られ、囚われている。ヒズボラやイラクのシーア派民兵が、ジハードと称して、アラブ世界で最も専横的な国家で、イスラムの価値とは無関係の世俗的なアラブ民族主義を標榜するバース党体制のシリア・アサド政権を支えているのは矛盾としかいえない。

 もちろん、シーア派の立場からは、自分たちを敵視するISとの戦いだというかもしれないが、アサド政権軍が主に戦っているのは、自由シリア軍や、IS以外の反体制イスラム武装組織である。政権軍やロシア軍の爆撃機が反体制地域の民間地域を空爆して子供を含むおびただしい民間人の死者を出し、地上でシーア派民兵が戦っているのである。

 現在、混迷のシリア内戦で、国境を超えてISに集まるスンニ派の若者と、アサド政権支援のシーア派という、ともに国の枠を超えて広がる2つのジハードが重なっている。イスラム教徒は、スンニ派もシーア派も「イスラムは平和を求める宗教」と強調するが、それぞれの「ジハード」がぶつかって6年間で30万人を超える死者を出し、500万人以上の難民を生んでいる。そのような愚行を前にすると、スンニ派、シーア派と言う前に、イスラム世界の英知を示すべきだと考える。

 

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第2回  
中東から世界を見る視点

中東情勢は、中東の国々と中東に関わる国々の相互作用で生まれる。米国が加わり、ロシアが加わり、日本もまた中東情勢をつくる構成要素の一つである。中東には世界を映す舞台がある。中東情勢を読み解きながら、日本を含めた世界の動きを追っていく。

関連書籍

「イスラム国」はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想

プロフィール

川上泰徳

中東ジャーナリスト。元朝日新聞記者・中東特派員。中東報道で2002年ボーン・上田記念国際記者賞。退社後、フリーランスとして中東と日本半々の生活。著書に『「イスラム国」はテロの元凶ではない グローバル・ジハードという幻想』(集英社新書)、『イラク零年』(朝日新聞社)、『中東の現場を歩く』(合同出版)、『イスラムを生きる人びと』(岩波書店)など。共著に『ジャーナリストはなぜ「戦場」へ行くのか』(集英社新書)。

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