高額療養費制度を利用している当事者が送る、この制度〈改悪〉の問題点と、それをゴリ押しする官僚・政治家のおかしさ、そして同じ国民の窮状に対して想像力が働かない日本人について考える連載第3回!
あれほど新聞やテレビニュースで連日報道され、朝や昼のワイドショー番組で何度も取り上げられた高額療養費上限額の〈見直し〉問題は、3月7日に石破茂首相がひとまずの見送りを発表して以降、最近では関連ニュースを見かけることがめっきり少なくなった。だが、マスメディア等の報道が減ったからといって、それがすなわち問題の解決を意味するわけではない。じっさいのところ、今回はからずも巻き起こった高額療養費上限額引き上げ「騒動」は、今の医療制度と社会保障を取り巻く様々な課題を我々ひとりひとりが身近な「じぶんごと」としてあらためて考えるための、ある意味で絶好の機会になったのではないかと思う。というわけで今回も、まずは現在に至るまでの状況整理、要するに「これまでのあらすじ」をなぞるところからはじめることにいたしましょう。
政府と厚労省が「物価や賃金上昇分への対応」で今年8月に引き上げるとしていた上限額改定案は、上述のとおり、ひとまず見送られることになった。だが、3月7日に官邸で行った発表で石破茂首相は「本年秋までに改めて方針を検討し、決定することといたします」と述べており、その10日後(3月17日)の参議院予算委員会で、福岡資麿厚労相も「本年秋までに改めて方針を検討し、決定する」と答弁。政府と厚労省の当初スケジュールに変更の意志がないことを改めて表明した。
一方、3月24日には、与野党議員超党派の衆参議員90名以上が参加する「高額療養費制度と社会保障を考える議員連盟」が発足。その設立総会では議連会長に就任した武見敬三前厚労相(自民)が「不必要に政治問題化することなく、丁寧に議論していきたい」と述べ、事務局長の中島克仁衆議院議員(立民)は「プロセスの不備を解消するためには一定期間、少なくとも1年はしっかりとデータを踏まえて議論していくことが必要なのではないか」と、政府と厚労省が示す今秋決定方針に対して熟慮を促すようにと釘を刺した。
ところで、この超党派議連結成や、それに先立つそもそもの問題提起は、ひとえに全国がん患者団体連合会(全がん連)と日本難病・疾病団体協議会などの患者団体による懸命な働きかけの成果といっていい。この人たちが昨年12月の引き上げ案発表以降、即座に行動を起こして署名活動を行い、各党議員やメディア等に対して懸命な働きかけを連日行ってきたことで全国的な関心が集まり、政府案の見送りという結果につながった。高額療養費制度を長年利用する当事者のひとりとして、ワタクシも今回の一連の経緯については大きな関心を持って注視してきたが、いち個人の非力さも同時にいやというほど痛感してきた。事態をここまで大きく動かした上記両患者団体および関係者諸氏には、この場を借りて心からの感謝と敬意を表したい。
また、全がん連理事長の天野慎介氏はX(旧Twitter)で、全国の自治体が続々と、高額療養費制度の負担上限額引き上げ見直しや凍結を求める意見書を可決していることも報告している。これは超党派議連の結成とともに、制度を利用する我々当事者にとって心強い動きといえるだろう。
閑話休題。制度見直し案再検討の時期に話を戻しましょう。
結論を急ぐべきではないという超党派議連設立総会での意見とは対照的に、政府と厚労省は、今年秋までに方針を決定したいとする態度をその後も変えようとしていない。4月3日に行われた厚労省医療保険部会でも、省側担当者から「秋までに検討して決定していくということになる」という発言があったようだ。今後は、超党派議連や各自治体意見書などが政府・厚労省に働きかけることによって、一方的で独善的なペースに歯止めをかけ、患者の声も反映させる形で時間をかけて熟議していただきたい、と制度を利用するひとりとして心より強く願う。
プロフィール

西村章(にしむら あきら)
1964年、兵庫県生まれ。大阪大学卒業後、雑誌編集者を経て、1990年代から二輪ロードレースの取材を始め、2002年、MotoGPへ。主な著書に第17回小学館ノンフィクション大賞優秀賞、第22回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞作『最後の王者MotoGPライダー・青山博一の軌跡』(小学館)、『再起せよ スズキMotoGPの一七五二日』(三栄)などがある。