特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第16回

山本草太が放つ「嘘のない意志」に勇気をもらう

高山真
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 山本草太の今シーズン、国際競技会における初戦はUSインターナショナルでした。ショートプログラムは『エデンの東』、フリーは『In This Shirt』を使用しています。

 私は山本草太の端正なスケーティング、静謐さの中にパッションが潜んでいるような演技が大好きですが、ショート・フリーともに、そんな持ち味を堪能できる素晴らしい作品だと思います。

 

  • ショートプログラム

(2019 US International SP)

 男子のシングルスケーターによる『エデンの東』といえば、「町田樹さん(引退された方なので敬称をつけさせていただきます)の名作が忘れられない」という方も多いでしょう。2014年世界選手権のショートプログラム(2014 Worlds SP)は、私も今でもよく見返す傑作中の傑作だと思います。内側に秘めたパッションが、曲が盛り上がるにつれてどんどん殻を破って光のように外へと放射され、最後には選手そのものが大きな発光体になるような演技。そういった演技を見られることはスケートファンにとってこのうえもない喜びです。

 そして、山本の『エデンの東』も、スケーター・山本草太自身が大きな発光体になれるポテンシャルを十二分に秘めた作品だと確信しています。

 

〇音楽が始まり、アームと胸郭が連動するような美しい動きから、左足を支点に、右足が大きくてシャープなインサイドのカーブを描く。この時点ですでに品格が立ち上るようで、見ている側の視線をグッと引き込む力を感じます。

 バレエにおけるアラベスクのような、短い距離のバックエッジのスパイラルも、ひざ頭を可能な限り「下」に向けず、「横」にポジショニングしているのを感じます。足を振り上げる勢いではなく、足の付け根の関節から、筋力によってレッグ全体を動かそうとしていることの表れだと思います。

 スパイラルのバックエッジをフォアに切り替えるときに、非常に自然に振り付けられたアームが色を添える。そして右足が先導するイナバウアーまでの、一連の流れの美しさ、クリアさ……。

「パワーがあるのに、前面に出てくるのは水彩画のような透明感」

 と言いますか、ここまでで私はすっかり魅入られていました。

 

〇最初の要素は今シーズンから競技プログラムに組み込んだ4回転サルコー! それをトリプルトウのコンビネーションジャンプに。新しい要素である4回転サルコーの、踏切の鮮やかさ、空中の回転軸の確かさにはただただため息が出るばかりでした。同時に、

「ほんの2年前のこの時期は、まだシングルジャンプを跳んでいたんだ」

 ということに思いが至り、涙がにじんでくるのを抑えられませんでした。

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 第15回
特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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