〇単独の4回転トウは2回転に。助走のあとにコネクティングステップを入れる明確な意志が見えること。そして、ショートプログラムの中に2つの4回転ジャンプを組み込むのは今シーズンからの挑戦であること。このふたつのハードルを、山本草太ならきっと乗り越えてくれると信じています。
〇右足のバックアウトサイドエッジの深いカーブからのフライングキャメルスピン。ドーナツポジションの背中のアーチの美しさ、回転軸の確かさは、やはり何度見ても素晴らしいものです。
〇トリプルアクセルは着氷後のトランジションとしてイーグルを組み込んできています。そしてそこから、ほぼダイレクトに足替えのシットスピンへ。
トリプルアクセルの成功率にある程度の手ごたえを感じているからこそ可能なプログラム構成だと感じます。
2017年の全日本選手権のショートプログラムでは、トリプルループからダイレクトにつながるような形で、足替えのシットスピンをおこなっていました。この難易度のアップの仕方にもグッとくるものがあります。
〇ステップシークエンスはまだここからブラッシュアップをしていくような気がしますが、やはり1歩1歩の大きさ、なめらかさに目を奪われます。
冒頭の、小さなホップから右足だけでエッジを切り替え、ただちにツイズルを実施する一連のエッジワークで出ているスピードの豊かさ、距離の大きさにため息が漏れました。
〇ラストのコンビネーションスピン。ひとつひとつのポジションを変化させるときに、スッと回転が速くなるのは、この選手がいかにスピンに熟達しているかの証明だと思います。何度見ても眼福です。
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(2019 US International FS)
使用している『In This Shirt』は、電子音なのにどこか教会音楽のような和音の響きが美しい。その響きの中で、ニュアンスに満ちた歌詞の世界が綴られていく、非常に印象的な曲でもあります。
非常に印象的な曲ですが、「これをスケートやダンスのような『身体表現』の曲に使用するのは、とても難しいのでは」とも感じさせる曲。「荘厳さとか重厚感がありながら、それは重々しさとはまったく違ったもの」というのが、私がこの曲を聴いて受け取ったイメージでした。
ファンのひいき目はあるかもしれませんが、この曲の世界観、「荘厳さや重厚感と、浮遊感のミックス」という味わいに、山本草太のスケーティング、演技は本当に似合っていると思います。この曲をチョイスしたこと、そしてこの演技全体のコレオを担当したパスカーレ・カメレンゴに感服するばかりです。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。