〇演技冒頭、ふた蹴りほどの助走の後、体は後ろ向きの上体をキープしつつ、右足のエッジがバックからスライドするようにしてフォアへと移行していく。そのエッジワークで、一気に「世界」へ引き込まれたような感覚に包まれました。
進行方向に対してブレーキをかけかねない動きなのに、フォアのエッジに変わってからも、アウトサイドエッジが豊かなスピードを維持し、もう一度バックエッジに切り替わりますが、今度はスライドではなくクリアに切り替わるのです。
大人のスケーターの「テクニックとエレガンスの両立」を感じさせる、本当に好きな箇所です。
〇ショートプログラムに続き、4回転サルコーからのコンビネーションジャンプ。後半のジャンプ、トリプルトウの着氷にやや乱れはありましたが、サルコーのクオリティはショート同様、素晴らしいものだったと思います。
〇ふたつめの4回転サルコーは転倒しましたが、
「今シーズンからプログラムに入れているジャンプを、フリーで2回入れてくる」
こと自体、大きなチャレンジであるのは間違いないでしょう。私はその点において、今後にさらに期待が膨らんでいます。
〇転倒後の4回転トウは、空中の回転軸の速さと確かさ、着氷後のひざのクッション、素晴らしいエッジのフローでした。このクオリティの4回転トウが跳べるポテンシャルを十二分に見ることができたので、ショートプログラム(4回転トウが2回転に)への期待もますます高まっています。
〇トリプルアクセルからダブルトウのコンビネーションジャンプから、ほぼダイレクトに、フライングで入る足替えのシットスピン。
体をひねるポジションになった瞬間スッと回転速度が上がるのが、山本草太のスピンの持ち味のひとつだと思います。
『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。