ショート、フリーとも、
「国際競技会において着実に階段を上っているし、今後もさらなる高みに行けるはず」
と感じられるプログラムだったと感じています。
この競技会で優勝した田中刑事も、素晴らしい演技でした。田中の演技についても、このシーズン中に書かせていただくチャンスがあることを願っています。
このコラムの最初で申し上げた通り、私には「ギリギリまで自分の体と向き合い、身体表現に挑戦する」という経験自体ありません(病気をめぐる自分の体との向き合いはありますが)。
山本草太のスケーティング、演技が、私は本当に好きですが、それ以上に尊敬しているのは、
「度重なるケガに見舞われても、長いリハビルの間でも『世界の舞台で戦う』という意志を切らさないでいてくれた」
という、その強さかもしれません。
私はフィギュアスケートというスポーツが大好きですが、それは競技そのものの激しさ、強さ、美しさが好きなのと同時に、
「自分よりはるかに若い人たちが、それぞれ自分自身に課した高いハードルに真摯に向き合い、なんとか超えていこうとする、その姿勢の尊さに、多大なる勇気やインスピレーションをもらっているから」
という部分も大きいのです。
8月のシニア合宿中におこなわれた山本草太のインタビューが、Youtubeの「フジテレビSPORTS」でアップされています。私はその様子をあらためて思い返しました。
ジャンプの練習は怖くないか、という質問に、
「だいぶそういう不安感とかは、もうなくなりました」
「(試合で)しっかりと決めれるように、練習をかなり増やしています」
と答えていた姿。その答えにまったく嘘がなかったことを、今回のショートとフリーから、私はしっかり感じ取ることができました。それはすなわち、山本草太が、本当に自分自身と厳しく向き合ってきたことを意味します。
山本草太だけでなく、どのスケーターも、時に理不尽なほどに過酷な状況の中で、それでも前を向いて努力を続けている。
本格的なシーズン到来を喜びつつ、観客である私は、これからも彼ら、彼女たちのその姿勢こそをいちばんにリスペクトしつつ、その演技を心待ちにしたいと思います。
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『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。