特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく 第19回

グランプリファイナル、羽生結弦の「もっとすごい物語」が具体的に見えてきた喜び

高山真
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「羽生結弦は、嘘のつけない、非常に正直な選手である」という内容のエッセイを以前にこの連載で書きました。

 羽生結弦が、自分のスケートに関して発する言葉。それを私なりにもっとも正確に表現するならば、

「体調があまりよくなかったとしたら、『体調はいいです』『大丈夫です』的なことは、嘘でも言えない」

「自分でも『これはできないだろう』と感じている技のことを『できる』とは言えない」

「ただし、『今の体調はあまりよくない』『現時点でこの技はできない』という場合は、それを会見などでポジティブな単語のみで表現することはある」

 だと感じているのです。

 平昌オリンピックの、試合が始まる前のニュースを覚えておいでの方も多いのではないかと思います。韓国に入国し、仁川空港で囲み取材を受けたとき、コンディションを質問された羽生は、

「えー…そうですね」

 としばらく考えた後に、

「滑っていないのでわからないです」

 と答え、しかしすぐに、

「ただ、どの選手よりも勝ちたいという思いが強くあると思いますし、どの選手よりも、ピークまでもっていける伸びしろがたくさんある選手のひとりだと思っているので、しっかりと、頂点というものを追いながら、頑張っていきたいと思っています」

 と続けました。

 皆さんご存じのように、平昌オリンピック、羽生結弦は金メダルを獲得しました。平昌の特設スタジオから放送されていたテレビの特番で、くりぃむしちゅーの上田晋也氏からの、

「正直、そんなにいい状態ではなかったわけでしょう?」

 という質問が終わるか終わらないかの段階で、

「いい状態ではないです」

 と答え、

「いつごろ『よっしゃ、間に合った』と思いました?」

 という質問には、

「間に合ったとは一個も思ってないですね」

 と即答していたことも思い出します。

 この言葉を、「試合前に気持ちを高めていかなくてはいけないタイミング」で表現すると、

「どの選手よりも、ピークまでもっていける伸びしろがたくさんある選手のひとりだと思っている」

 になるのだ、と感じ入ったのです。

 そんな羽生の「嘘のつけない」部分は、今回のグランプリファイナルの試合後に設けられた『報道ステーション』内の松岡修造氏との対談で、

「ひとつ言えるのは、やっぱり武器が必要。で、それは(4回転)ルッツじゃない」

「(4回転アクセルを)やるべき時が来たなと思ってます」

 という言葉になって現れた、と私は感じました。

 また、試合後のプレスカンファレンスで、4回転アクセルについて「世界選手権あたりには、というプランはあるか」と記者に尋ねられたときも、

「はい、頑張ります。そのつもりで」

 と答えていたことが報道されていました。

「やるべき時が来た」「(世界選手権で披露できるように)頑張る」とはっきり言えるということは、嘘がつけない羽生結弦の中で「やれる」と、ある程度の確信を持っているからこそ……。そう思えることが、何よりもうれしい。

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特設エッセイ 羽生結弦は捧げていく

『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。

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プロフィール

高山真

エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。

 
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