何度も書いていることですが、「これだけは忘れてはいけない」と自分自身に言い聞かせていることなので、ここでも書くことをお許しください。
私がフィギュアスケートを見始めたのは1980年からですが、そこから、「オリンピックで連覇を果たしたスケーター」は女子シングルのカタリナ・ヴィット、アイスダンスのオクサナ・グリシュク&エフゲニー・プラトフ、そして羽生結弦のみです。
「オリンピックで2回優勝した」と枠を広げると、ペアのエカテリーナ・ゴルデーワ&セルゲイ・グリンコフ、アイスダンスのテッサ・ヴァーチュ&スコット・モイア、そしてペアの男性スケーター、アルトゥール・ドミトリエフ(アルベールビルはナタリヤ・ミシュクテノク、長野はオクサナ・カザコワがパートナーでした)。
そして、2回目のオリンピック優勝の後でも競技選手としてキャリアを続けているのは、羽生結弦だけです。
スケートファンとして、羽生結弦というスケーターのファンとして、私は、続けてくれること自体に、これ以上ないほど感謝しています。
そして今回、
「あの頃、あのとき、ひとりの若きスケーターが、ものすごい勢いで駆け上がっていった。あの、熱くてグッとくる空気感を、再び味わわせてくれている」
という感謝が加わりました。率直に言って、予想もしていなかった展開でした。だからこそ、この感謝は、この喜びは、私にとって本当に大きいものなのです。
「この選手は、もっともっと大きくなる。こちらの予想など意味がなくなるほどのスケールで『何か』を実現する選手になれる」
と、まだまだ思えること……。NHK杯を振り返るエッセイで、
「羽生結弦は『この物語には続きがある』と示してくれただけではない。『この物語には、もっとすごい続きがある』と示してくれた」
と書きましたが、それがより具体性をもって立ち現れてきたと感じるのです。
「ネイサンが素晴らしい演技をしなければ学ぶことができなかった。強くなろうと思うこともできなかった。ネイサンにすごく感謝している」と語る羽生結弦。
「ユヅルは史上最高(GOAT)の選手。長い間尊敬している。そんな選手と氷上で一緒になる機会があるのは素晴らしい」と語るネイサン。
ふたりだけでなく、すべての選手が、「もっと上に行きたい」と願い、鍛錬を続けています。その成果がこれからも見られますように。そして誰よりも選手本人が望む成果を出すために、選手たちが健康であり続けることを、観客として祈ります。
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『羽生結弦は助走をしない』に続き、羽生結弦とフィギュアスケートの世界を語り尽くす『羽生結弦は捧げていく』。本コラムでは『羽生結弦は捧げていく』でも書き切れなかったエッセイをお届けする。
プロフィール
エッセイスト。東京外国語大学外国語学部フランス語学科卒業後、出版社で編集に携わる。著書に『羽生結弦は助走をしない 誰も書かなかったフィギュアの世界』『恋愛がらみ。不器用スパイラルからの脱出法、教えちゃうわ』『愛は毒か 毒が愛か』など。