21世紀のテクノフォビア 第4回

鉄道嫌いの時代(前編)

速水健朗

20年前は「ゲーム脳」、今は「スマホ脳」。これらの流行語に象徴されるように、あたらしい技術やメディアが浸透する過程では多くの批判が噴出する。あるいは生活を便利にするはずの最新機器の使いづらさに、我々は日々悩まされている。
なぜ私たちは新しいテクノロジーが生まれると、それに振り回され、挙句、恐れてしまうのか。消費文化について執筆活動を続けてきたライターの速水健朗が、「テクノフォビア」=「機械ぎらい」をキーワードに、人間とテクノロジーの関係を分析する。
今回は鉄道の誕生と、それに伴って生まれた「鉄道嫌い」について。

■鉄道が登場した経緯とインパクト

鉄道が登場したとき、当時の人々がどれだけ驚いたのかは、まるで想像がつかない。テレビの登場とはどう違ったか。アポロ11号の月面着陸もインパクトは大きかった。とはいえ、鉄道ほどではなかったのではないか。テレビは、娯楽のあり方を変えたが鉄道は都市のあり方や人の働き方まで日常を変えた。月面着陸は、所詮離れた場所での出来事。鉄道ほど身近ではない。

リバープール=マンチェスター鉄道の開通は1830年のこと。馬車と蒸気機関車が混合した路線や採掘場や工場などの運搬用の線路はすでに存在していたが、都市間を結んで人を主に運ぶ公共鉄道の歴史は、このときに始まったもの。日本の鉄道よりも42年早い。そして、イギリスでは各地に次々と鉄道が開通し、開通した地域でのパーティ、横断幕、ブラスバンド演奏など浮かれたイベントが開催され、15年ほど浮かれた時代が続いていく。

■鉄道反対論者は何に反発したのか

鉄道開通への反対運動も起きていた。開発によって自然や景観、遺跡などが損なわれることへの反対の声は大きかった。ローマ時代や中世から残っていた建物が次々と壊され、駅舎などがつくられた。

当初の鉄道には、まるで計画性がなかったのだ。鉄道会社各社は我先に都市周辺の土地を買収し、あっという間に網の目状の線路で埋め尽くそうとした。投資ブームで鉄道会社の株は上がると信じた人々が大金を出資して乱開発を後押ししたのだ。

当時、鉄道の株を買った人たちが代わりに売り払ったのは、運河の運搬会社の株である。鉄道の競合といえば馬車が浮かぶが、むしろ競合したのは運河の運搬船会社だ。利害関係を巡るライバルの妨害運動も多かった。

中には、地主のもとで働いていた労働者たちが逃げ出すチャンスを与えないで欲しいという鉄道普及への反対意見も浮上した*1。地主たちは、そこから逃げられないことを前提に労働者たちを囲い込んで、雇用していた。逆にいえば、鉄道の誕生によって、労働者たちは働き方や住む場所の自由を得たのである。

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20年前は「ゲーム脳」、今は「スマホ脳」。これらの流行語に象徴されるように、あたらしい技術やメディアが浸透する過程では多くの批判が噴出する。あるいは生活を便利なはずの最新機器の使いづらさに、我々は日々悩まされている。 なぜ私たちは新しいテクノロジーが生まれると、それに振り回され、挙句、恐れてしまうのか。消費文化について執筆活動を続けてきたライターの速水健朗が、「テクノフォビア」=「機械ぎらい」をキーワードに、人間とテクノロジーの関係を分析する。

プロフィール

速水健朗

(はやみずけんろう)
ライター・編集者。ラーメンやショッピングモールなどの歴史から現代の消費社会について執筆する。おもな著書に『ラーメンと愛国』(講談社現代新書)『1995年』(ちくま新書)『東京どこに住む?』『フード左翼とフード右翼』(朝日新書)などがある。

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