あなたを病気にする「常識」 第1回

「受動喫煙の健康被害は証明されていない」は本当か?

津川友介

写真提供:freeangle / PIXTA

テレビ、本、ネット……健康についての情報に触れない日はない。
だが、あなたが接している健康の「常識」は、
本当に正しいものなのだろうか?
確かな科学的根拠に基づいて
誤った常識を塗り替える医療エッセイ、スタート!

 

【誤った常識】
受動喫煙の害は完全には証明されていない

 

「病気になる確率」を上下させる要因

 人は、元気な時には病気になった時のことがイメージできない。病気になって痛かったり苦しかったりとつらい思いをすると健康であることが「当たり前」ではないことに気づくのだが、「のど元過ぎれば熱さを忘れる」とはよく言ったもので、元気になってしばらくするとまた病気になることがあまり想像できなくなる。

 私達は毎日小さな選択を積み重ねている。朝出勤時に駅まで歩いていこうかそれともバスに乗ろうか。ランチタイムに野菜たっぷりの食事を出してくれる定食屋に行こうか、それともラーメン屋に行こうか。お酒を飲むべきか飲まないべきか。タバコを吸うべきか吸わないべきか。一つ一つの選択によってその人の健康に決定的な影響を与えることはないものの、それらは一歩ずつ確実に病気に近づけたり、逆に遠ざけたりする。「病気になる確率」や「健康で長生きする確率」が上がったり下がったりするのである。

 テレビや週刊誌で、細かいことは気にせずに好きなものを食べていたけれども100歳まで生きていたご老人や、逆にストイックに健康を気にかけていたけれども早死にしてしまった人の話を見聞きしたこともあるだろう。人生には「たられば」は無いので、その人たちが違う生き方をしていたらどうなったか分からない。しかし、前述の100歳でも元気なご老人は健康的な食事をしていればもっと健康で長生きできていたかもしれないし、早死にしてしまった人が不健康な生活をしていればもっと短命だったかもしれない。

 もちろんその人にとって何が最善かは分からないことも多い。それでも研究から分かっていることもある。それは「病気になる確率」を上げたり下げたりする方法である。幸いなことに多くの医学研究がこの「病気になる確率」を上げたり下げたりする要因を明らかにしている。

「エビデンス」という言葉を聞いたことがあるだろうか。日本語では「科学的根拠」と訳され、研究結果のことを意味する言葉である。ある研究によって、特定の食品が健康に良いことが分かったとすると、この事実のことをエビデンスと呼ぶ。

 数字を使えば全てエビデンスになる訳ではない。アンケート調査して、「満足している」や「やや不満である」という人たちの割合を円グラフで表したものを目にしたことがある人も多いだろう。残念ながら、こういったもののことは私たち研究者はエビデンスとは呼ばない。エビデンスとは、より高度な手法を用いて評価された研究のことであり、よって信頼性が高いものを指す。

 多くの場合、エビデンスは論文になっている。論文になっていれば全て信頼できる訳ではないのであるが、論文になる過程では一般的に3名以上の研究者が査読(中立な第三者である専門家が論文を読み、解析方法は妥当か、内容が信頼に値するかなど論文の質のチェックをすること)を行い、研究が正しい方法でなされているかどうか、研究結果から導き出された結論が妥当かなどの評価が行われる。この評価に耐え、医学雑誌の編集長が合格を出した研究結果だけが論文として掲載されるのである。

 2018年の春に放送されていた「ブラックペアン」という外科医のドラマで、医師同士が躍起になって論文を雑誌に掲載させようとしているのを見た人もいるだろう(このドラマは医療現場に関して現実と大きく異なる描写をしているということで日本臨床薬理学会が抗議文を提出しているが、ここではその問題に関しては触れない)。論文を医学雑誌に載せることはそれくらい厳しい戦いなのである。論文になっていない研究結果は、誰のチェックも受けていないということになるので、どこまで信頼できるかは分からない。

 学会発表も、(少なくとも医学の世界では)論文ほど厳しいチェックを受けないので、それほどあてにならない。学会によっては審査があり質の高い研究のみ発表させてもらえるものもあるが、申し込んだ研究はほぼ全て発表できる学会もある。本当に質の高い研究であれば、学会発表の後にいずれは論文化されて雑誌に掲載されることが多いので、論文になるまで待つというのもよい方法だろう。

 

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第2回  
あなたを病気にする「常識」

テレビ、本、ネット……健康についての情報に触れない日はない。 だが、あなたが接している健康の「常識」は、本当に正しいものなのだろうか? 確かな科学的根拠に基づいて、誤った常識を塗り替える医療エッセイ。

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プロフィール

津川友介

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授。

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)・博士号(PhD)を取得。
聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)がある。
ブログ「医療政策学×医療経済学

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「受動喫煙の健康被害は証明されていない」は本当か?