あなたを病気にする「常識」 第3回

カロリーだけを気にしていても痩せられない理由

津川友介

白米=太りやすい炭水化物、玄米=やせやすい炭水化物

 ハーバード公衆衛生大学院の栄養疫学者のチームが、世界的に最も権威のある医学雑誌の一つである「ニューイングランドジャーナルオブメディシン誌」に発表した論文を2つ紹介しよう。

 1つ目の研究は、米国人約12万人を12~20年間追跡し、食生活の変化と体重変化の関係を評価したものである。4年間毎にデータを区切り、その期間における「食事の変化量(4年間で食事がどれくらい増減したか)」と「体重の変化量(同時期に体重がどれくらい変化したか)」の関係を解析した。

 このような解析方法を使ったのにはわけがある。太っている人とやせている人だけを単純に比較したら、この2つのグループは食事以外の多くの面で異なる(生活習慣など)ため、比較することが適切ではないということになってしまう。しかし、太っている人もやせている人も、同じように体重が増えたり減ったりする。食事と体重の「変化量」の関係を評価することで、【(太っている人ではなくて)太ってしまった人】と【(やせている人ではなくて)やせた人】を比較したのである。

 その結果が次のグラフである。フライドポテトやポテトチップスの摂取量が増えている人ほど体重が増加しており、ヨーグルトやナッツの摂取量が増えている人ほど体重が減少していることが明らかになった。

出典・Mozaffarian et al.(2011)を元に筆者作成

 ここで興味深いのは、似たような食材でも加工方法の違いで、体重への影響が正反対であるものがあることである。

 例えば、白米、パン、パスタなどの「白い(精製された)炭水化物」の摂取量が増えている人ほど体重が増加していたのに対して、玄米、全粒粉などの「茶色い(精製されていない)炭水化物」の摂取量が増えている人ほど体重が減少していた。

 白米も玄米もカロリー量(1グラムあたり4Kcal)や糖質量(100グラムあたりの糖質量は白米で77グラム、玄米で71グラム)はほぼ同じであるにもかかわらず、体重への影響は真逆であった。これはカロリーの量や糖質量だけを見ていると、ダイエットに関する判断を誤る可能性があることを示唆している。

 果汁100%のフルーツジュースの摂取量が多くなっている人ほど太っていたのに対して、(未加工の)果物を多く摂る人ほどやせる傾向があった。果物もフルーツジュースもカロリー・糖質量は大差ないにもかかわらずダイエットへの影響は真逆であり、やはりカロリーや糖質の量だけでは評価できないことを示唆している。

 また、ちまたでは太ると言われているナッツだが、摂取量が増えていた人はやせていた。一方、最近日本で太らないと言われるようになってきた「赤い肉」(牛肉や豚肉のこと。鶏肉は含まれない)の摂取量が増えた人は太っていた。

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あなたを病気にする「常識」

テレビ、本、ネット……健康についての情報に触れない日はない。 だが、あなたが接している健康の「常識」は、本当に正しいものなのだろうか? 確かな科学的根拠に基づいて、誤った常識を塗り替える医療エッセイ。

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プロフィール

津川友介

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授。

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)・博士号(PhD)を取得。
聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)がある。
ブログ「医療政策学×医療経済学

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