あなたを病気にする「常識」 第3回

カロリーだけを気にしていても痩せられない理由

津川友介
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看護師と医師からデータを取る理由

 これらの研究は観察研究であり、ある食生活をしている人を追跡して、その人の体重がどのように変わったかを評価したものである。総摂取カロリー量だけでなく、運動量、一日のうち座っている時間やテレビを観ている時間、喫煙習慣、睡眠時間などのほかの生活習慣に関しては統計的な手法を用いて影響を取り除いている。つまり、同じような生活習慣・食習慣の人で、ある特定の食品の摂取量が違う人を比べているのである。

 これらに加えて、2つ目の果物と野菜の研究では、食事に関する他の要因(野菜と果物以外の食事内容)の影響も統計的に取り除いている(ただし、2つ目の研究では総摂取カロリー量の影響はあえて取り除いていない。果物や野菜の種類でカロリーそのものが変わってしまうためである)。

 これだけ洗練された統計手法が使われていても、残念ながら完璧ではない。健康的な食生活をしている人と不健康な食生活をしている人とでは、運動習慣や喫煙など研究者がデータとして集めたもの以外の要素(そもそもの健康に対する意識など)も違うと考えられ、統計的手法ではこれらの影響を100%取り除くことはできない。つまり、これらの研究からは自信を持って因果関係があると言うことはできない。

 それでもなお、太った人、やせた人がどのような食事をしていたのかを観察することで参考にできることはたくさんあるだろう。食事の影響に関しては、個人差がある可能性もあるので、実際にご自分で食事内容を変えてみて、それで体重がどのように変化するかを見てみるのもよいだろう。

 ちなみに、これら2つの研究は一般市民を対象としたものではなく、看護師と医師のグループを対象にしたものである。これは別に医療従事者にしか関心がなかったというわけではない。こういった研究では、長期間にわたって研究に参加し、データを提供し続けてくれる人を対象にすることが何よりも重要である。医療従事者は研究の意義に同意し、医学知識もあるので質問内容を正確に理解し、まじめにデータを提供し続けてくれる人達であるということで研究対象に選ばれたというわけである。

 いずれにしても、テレビや本による「○○を食べればやせる」という情報を鵜吞みにするのではなく、きちんとその主張の科学的根拠(エビデンス)を評価して、信頼できる情報だけを自分の生活に取り入れること。これが現代人にとっては必須のスキルの一つだと思われる。

【エビデンスに基づいた新常識】
同じカロリーや糖質量であっても、
体重への影響は違う可能性がある

 

(「小説すばる」2018年11月号より転載)

 

『「原因と結果」の経済学―――データから真実を見抜く思考法』

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あなたを病気にする「常識」

テレビ、本、ネット……健康についての情報に触れない日はない。 だが、あなたが接している健康の「常識」は、本当に正しいものなのだろうか? 確かな科学的根拠に基づいて、誤った常識を塗り替える医療エッセイ。

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プロフィール

津川友介

カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)助教授。

東北大学医学部卒、ハーバード大学で修士号(MPH)・博士号(PhD)を取得。
聖路加国際病院、世界銀行、ハーバード大学勤務を経て、2017年から現職。
著書に『週刊ダイヤモンド』2017年「ベスト経済書」第1位に選ばれた『「原因と結果」の経済学』(中室牧子氏と共著、ダイヤモンド社)、『世界一シンプルで科学的に証明された究極の食事』(東洋経済新報社)がある。
ブログ「医療政策学×医療経済学

 
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