田原:僕はね、戦争を知っている最後の世代なんですよ。僕が小学5年生の夏休みに玉音放送があった。でも、その直前まで、小学校の教師たちは「この戦争は世界の侵略国であるアメリカ、イギリスを打ち破って、植民地にされているアジアの国々を独立させ解放させるための正義の戦争である」「だから君たちは早く大人になって戦争に参加して、天皇陛下のために名誉の戦死をしろ」と、こういうふうに言っていたわけ。
小学生だった僕らはそれを信じた。ところが終戦になって、占領軍が入ってきたら教師の言うことが180度変わった。「あの戦争は間違いの戦争だった。君らは戦争なんかに絶対に行ってはいけない。戦争が始まりそうになったら、平和のために体を張って戦え!」と。そして、先生たちが英雄だともてはやしていた東条英機首相なんかが、占領軍に次々逮捕されたら、ラジオも新聞も「逮捕されるのは当然だ」と報じるんだよ。これを見て僕は、「偉い人や大人の言うこと、マスコミは全く信用できない」と思った。
村本:田原少年が「疑う」ということを憶えたんだ。
田原:しかも、その5年後、朝鮮戦争が始まった。そこで僕は「朝鮮戦争反対」って言ったら、今度は「お前は共産党か!」と言われた。また大人の言うことが変わったんだよ。
今の人は知らないし、信じられないかもしれないけれど、それまでは、日本共産党と進駐軍は非常に仲良かったんです。僕らは進駐軍とか占領軍とか呼んでいた米軍のことを、共産党は「解放軍」と呼んでいたぐらい。何しろ、戦争が終わるまで監獄に入れられていた共産主義者を「解放」したのは進駐軍ですからね。
ところが朝鮮戦争が始まったら、共産党はパージされた。ほんの数年の間に二度も大人たちの価値観が180度変わったわけ。だから僕らはいよいよ、教師をはじめ偉い人の言うことは信用しなくなった。マスコミは信用できない。国も信用できない。これは今もそう。
村本:だから、田原さんは政権が変わっても今と同じことをずっと言い続けるわけですね。僕もコメディアンですから、政権が変わっても同じようにそれを笑いにすると思います。権力は常にそういう対象だと思っているから。
ところで、権力といえば、国は辺野古の米軍基地の工事を再開しました。で、沖縄県が工事を差し止めようとしたら、沖縄防衛局が「行政不服審査法」というのを使って対抗しようとしている。そこで僕、行政不服審査法とは何かと調べたら、例えば自分の家の前に産業廃棄物処理場ができる。それに一国民がやめてくれと、市民が行政の行なうことに不服を申し立てるための仕組みなんですね。ところがそれを、沖縄防衛局というお役所……つまり国家権力の一部が「まるで市民という体で」、同じ国家権力の一部である国土交通大臣に不服を申し立てた。こんな自作自演の茶番はないでしょう。
そんな汚いやり方をしてでも自分たちの目的を強行しようとしている。民主主義って、そもそもは自分たちのことは自分たちで決めるという仕組みのはずなのに、そして、沖縄の人たちは基地は要らないって意思表明をしているのに、それを平然と無視するのは独裁国家と同じような気がするんです。
田原:確かに、地方自治体の意思を国が無視するなんていうことはあり得ないよ。
村本:なんでメディアはそのおかしなことをもっと伝えないんですか……。
お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。
プロフィール
田原総一朗
1934年、滋賀県彦根市生まれ 早稲田大学文学部卒業。岩波映画製作所 テレビ東京を経て、77年にフリーに。現在は政治・経済・メディア・コンピューター等、時代の最先端の問題をとらえ、活字と放送の両メディアにわたり精力的な評論活動を続けている。テレビ朝日系で87年より『朝まで生テレビ』、89年より2010年3月まで『サンデープロジェクト』に出演。テレビジャーナリズムの新しい地平を拓いたとして、98年ギャラクシー35周年記念賞(城戸賞)を受賞した。2010年4月よりBS朝日にて「激論!クロスファイア」開始。02年4月より母校・早稲田大学で「大隈塾」を開講、未来のリーダーを育てるべく、学生たちの指導にあたる。05年4月より17年3月まで早稲田大学特命教授。著書に『日本の戦争』(小学館)、『塀の上を走れ』(講談社)『AIで私の仕事はなくなりますか?』(講談社+α新書)他多数。
村本大輔
1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。