村本:北海道でスーパー銭湯みたいなところに行ったんですよ。そこでわんぱくな男の子がフルチンで更衣室を走り回って、ほほえましい光景だったんだけど、その子をお父さんが殴ったんです。「恥ずかしいことすんな!」って。
あと、僕、地元の中学校で講演したんですが、終わった後に一人の子どもが追いかけて来たんです。その子は僕が最後に「質問ありますか?」って聞いたときに手を挙げて、「僕も芸人なりたいです」って言った子で、それを聞いたまわりの人たちが「ええ~っ、普段おとなしいお前が芸人かよ?」って、冷たい、イヤーな空気になったので、印象に残ってたんですが。
その子が講演の後で追いかけてきて「サインください」と言ったので、「いいよ」と言ったら、「いいんですか!」と驚いたんです。なんでかと思ったら。「昨日お父さんに、村本さん来るからサインもらおうって言ったら、『そんなみっともない、恥ずかしいことするな』と言われた」らしくて……。
幡野:その殴ったお父さんも、サインもらうのやめとけって言ったお父さんも、本人なりの教育なんでしょうが、それって確実に子どもをダメにする教育ですよね。だって、世の中知らないことだらけじゃないですか。今、村本さんが言ったみたいに、怒ったり、恥ずかしいと思わせてしまうと、疑問を持つチャンスを奪ってしまうし、その結果、知ったかぶりを生んだりする。
確かに子どもは知らないことがいっぱいある。大人が子どものことを「知らないことがあるからダメなヤツ、矯正してあげなきゃいけない」と思い込んでいることで、実はどんどんダメにしてる可能性ってあると思います。
村本:うんうん、そうやって、人前で有名人のサインもらおうとして親に怒られたり、「芸人になりたい」って言って周囲の冷たい視線にさらされたりして「やっぱり恥ずかしいからやめよう」って思ったら、本当はあるかもしれない「可能性」がなくなっちゃうじゃないですか? でも、実際は頼まれればサインぐらいしてあげるし、その子が将来、メチャクチャ面白いお笑い芸人になれる可能性だってあるかもしれない……。
そうやって怒られたり、バカにされたりして「恥ずかしいという感情」を植え付けられて育つことで、いろんな可能性が失われちゃうし、自分から何かをしようとする勇気もなくなるから、そこから感じたり、考えたりするきっかけも無くなってしまうと思うんです。
たぶん、僕もふくめて、多くの人はそうやって怒られて育っていて、「これやったら恥ずかしい」みたいな意識を植え付けられているから、そのせいで「感じたり」「考えたり」するチャンスをずいぶん逃していると思うんです。
例えば、僕は38歳の大人で、憲法9条をちゃんと知らないから、テレビ番組の中で「憲法9条教えてください」って言うじゃないですか。そうすると「いい大人なのにそんなコトも知らないなんて恥ずかしいだろ!」とか言われるわけで、やっぱり「恥ずかしい」と感じることはありますよ。
でも、本当はそこから「自分で考える」っていうコトが大事で、自分から疑問や興味をもって考えると、それまで信じていた常識やルールもガラッとひっくり返ることがある。子供にそういう経験をさせてあげることが、ホントの教育なんだと思いますね。
取材・文/川喜田研 撮影/藤澤由加
第3回 「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない は4月5日に配信の予定です。
お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。
プロフィール
幡野広志
1983年、東京生まれ。2004年、
村本大輔
1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。