ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 Round2-3

「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない

幡野広志×村本大輔

幡野:でも、全然そういうことは知られていないから、みんな平気で、しかも「善意」だと思って、そういうことをするわけです。がん患者が一人いたら、周囲に10人ぐらいは友達とか家族がいるでしょうから、100万人の患者に対して1000万人ぐらいの健康な人がいろんなことを言っちゃう。それによってがん患者が苦しんで、人によっては自殺する人もいるし、うつ病になったり、適応障害になったりするケースもある。確かにがんは体がつらくなる病気だけど、それ以上に、健康な人たちによって心が潰されちゃう。これは自分ががんになって、大きな問題だなって気づきましたね。

村本:心の健康が大事とかっていうじゃないですか。

幡野:そう、心を保つことが一番大事です。ところが、それを「周りの人間」が崩してしまう。僕なんか割と好きなことやっている方だと思いますが、それって一般的な「がん患者像」からすると外れているんですね。世間にはもっと「病弱で、辛そうで……」みたいな、がん患者像を求めている人がたくさんいるから、違和感を感じちゃう。

だから、僕が敢えて仮病を使って弱々しくしてるときの方が、うれしそうに見える人もたくさんいました。おそらく、「がん患者が好きなコトやっている姿」ってある意味「かわいくない」んでしょう。弱々しくしているほうが喜ぶ人って多いんですよ。

村本:勝手なイメージ像に当てはめられるんですか。それってたしかに「オーディエンス」の立場ですよね。「がん患者」という悲劇を見ているつもりのオーディエンス。

幡野:うん、かなり当てはめられますね。確かに、僕のような末期がん患者になれば、いつかは死ぬんだけど、少なくとも、今日、明日死ぬわけじゃない。あと何年間は生きられるから、その残りの生き方を真剣に考えるんです。例えば、旅行に行きたいと思う人もたくさんいるんだけど、それに対して「そんな旅行なんか行ってないで休んでなさい」みたいに、まわりが患者がやりたいことをやらせないコトってすごく多い。

だから、村本さんにサインをもらいたいって言った子に対して、「お前、そんなみっともないことやめとけ」って言ったお父さんと同じで、「病気になったけど、これしたい」という人に「やめとけ」って、急に弱者扱いされる。

村本:それもやっぱり「患者の気持ちに寄り添う」んじゃなくて「心配している自分」に患者を寄り添わせて、結果的に縛ってるんだ。

幡野:その場合、そういう人と関係を絶たなければ、好きなことが何ひとつできなくなるので、僕、健康のときからうまく付き合ってる人って、妻しかいないですね。親とか親族、友人とかとも会ってないですね。でも、これはもう仕方がないと思う。

でもね、がんって、実際になってみるとちょっと面白いですよ。

村本:えっ、面白い……?

幡野:がんになると、特に、僕のような末期がん患者になると、健康なときに自分がどんな人間だったか、よく分かるんです。自分は何者だったのか? どういうことを考えて生きてきたのか? 寿命が短いから、そういう思考が急に加速する感じなんですね。

©Hiroshi Hatano

もちろん、自分があと40年、50年生きられるのなら、別にそういう思考を加速させる必要はないんだけど、残り3年とか5年になると、自分が今まで積み重ねたものを凝縮させて燃やすような感じになる。だから、僕、思うんですけど、村本さんとか、がんになったら、たぶん「悪くない」と思いますよ。

村本:いや、こんなコト言ったら「また、村本はなに言ってるんだ!」って叩かれるかもしれないけど、正直、ちょっとうらやましくなるときがあって。なんか、自分のいらないものがそぎ落とされて、見るべきものと、やりたいことが整理されるような気がする。

幡野:そうなんですよ。逆に、例えば、健康なときに、ネットの情報だけ追いかけて、自分では何も考えずに生きている人ががんになると、あんまりいい状態にはならないかもしれない。その場合、そういう「何も考えないで生きてきた人生」がさらに凝縮されちゃって、その結果、すごく卑屈になる人がいるんです。そんな風に、がんになると自分が「健康なときにどう生きていたか」が、リトマス試験紙のようにわかる。自分が試されるんです。それはちょっと面白いですね。

それから、自分ががんになると、親とか兄弟、妻、近しい人たちも変わっていきます。患者の家族って「第2の患者」って言われていて、患者と同じような心理状態になっちゃうんですね。そのときに、うまく心を保てる人と、心を崩しちゃう人と2つに分かれる。そこで、「彼らが何者だったのか」がよく分かる。このように「がん患者」と「がん患者の周りにいる多く人たち」の間にはいろんな溝があるし、患者でもなければ、身近に患者がいない「それ以外の人たち」との間には、さらに大きな溝があって、その人たちはがんのことも、がん患者のことも全然知らない。

でも、本当は「がん」って「それ以外の人たち」にとっても、決して他人事じゃないんだということに、気づいていない人が多いと思います。というのも、最近は他の病気が治せるようになってきたので、相対的にがんで死ぬ人が増えてきたんですね。もちろん、高齢化もあって、日本が急激に高齢化しているから、がん患者が増えて亡くなってるんです。そうなると、自分ががんになるにしろ、あるいは自分の家族や友人ががんになるにしろ、今やがんと関わらない日本人ってほとんどいないんですね。

実際にそうなったときに初めて「こんなことになるんだ!」って知るより、今、自分が体験していることを、少しでも人に知らせたい。「がんになるとこうなりますよ」って教えた方が、役に立てるんじゃないかと思ったりするんですよね。

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ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

幡野広志×村本大輔

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。作品集『写真集』(ほぼ日)。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

 
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「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない