ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」 Round2-3

「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない

幡野広志×村本大輔

村本:幡野さんにとって、がんって何者ですか。

幡野:うーん、何者なんでしょうね。

村本:僕は幡野さんの話を聞きながら、がんというのは、もしかしたら人間に「生まれてきて良かった」と思わせてくれるもの……という感じがあったんです。でも、幡野さんが死んだら、幡野さんのがん細胞も一緒に死ぬわけでしょ。何者ですか、あいつは?

幡野:これ、がん患者とか、がんの家族の方が聞いたら怒るかもしれないけど、正直、人間にとって必要なものだと思う。だって、がんまで克服したら、人間、死ななくなっちゃうわけですよ。上が死なないと下が出てこられない、やっぱり、世の中、回転していかないといけないと思うので。

確かに、自分みたいに「30代半ば」というのは「ちょっと早いかな……」って気はしなくはないけど、実際になってみると、がんという病気は、そこまで悪いものではないですよね。交通事故みたいにすぐ死ぬとか、脳梗塞みたいに突然、意識を失ってそのまま……というんじゃなくて、ある程度時間があるから準備もできるわけですし。

僕のこういう考えって、たぶん、狩猟やっていた経験が大きいと思います。鹿、イノシシ、鴨、キジ、ウサギ……、そういう「命あるもの」を食べるために殺す。それは、その動物にとっては死だけど、僕の生きることにつながって、自分の子どもを育てるということにもつながっている。命って結局、持ちつ持たれつで回転して、それは人間同士だけじゃなくて、全部そうだと思う。だから、自分が死ぬとなったときに、死にたくないって感覚には、僕はならなかったですね。そういうサイクルの中に身を置いていることを理解していたから、「ああ、順番が来たんだな」って感覚が一番大きかったかな。

村本:動物にとっては、人間がある意味、がんじゃないですか。人間という「がん」に見つかって逃げるやつもいれば、鹿みたいにピッと止まって目をずっと見るやつもいる。

幡野:動物だって人間が生産する畑に忍び込んで食べ物を取って生きながらえる。ごみを食べたりする種もいるし、人間が生息しているから、山って実は保たれてもいるので。やっぱ持ちつ持たれつですよね。

村本:なるほど。人間が生息するから山が保たれてる…。

幡野:本当の原生林って、日本だったら青木ヶ原樹海とか、すごく薄暗くて、木は倒れまくってるし。だから、ヨーロッパの童話って、森が「恐ろしいモノ」扱いになってますよね。『ヘンゼルとグレーテル』とか。

だけど、日本の山は、人間が手を加えているから、きれいなんですよ。それが動物の生態系にもつながっていて、人間がいないと動物も成り立たないし、動物がいないと人間も成り立たない。これはもう持ちつ持たれつ。間違いなくそうだと思う。

村本:今、森の中の動物の話をされましたが、牧場の家畜とか、人間に搾取されまくってるじゃないですか。牛なんか乳を搾られ、子どもじゃなくて人間の方に分け与えられる。

幡野:実際、家畜って、すごい搾取されるシステムですよね。だから、ベジタリアンとかビーガン、動物愛護団体の方とかが批判されることがすごく多いんですけど、気持ちはよく分かる。家畜のことを勉強して、現場を知った人で、それについて何も感じない人ってたぶんいないでしょう。牛乳は牛が出産しなければ出ないですよね。だから、出産させるために毎年妊娠させる。メスが生まれれば、それを育ててまた乳牛にできるけど、オスが生まれたらすぐに子牛のステーキですからね。

ビーガンの人って、搾取される動物がかわいそうだから動物性のものを食べないっていう考え方の人が多いんですよね。

村本:それ強いなと思うんですよね。ステーキが旨い、焼肉も旨いというのを知ってしまったし、電気もそう。スマホも今さらガラケーに戻すのか、黒電話に戻すのかは考えられないし、パソコンを手書きに戻すのも無理。便利を知ったら落とせない。

幡野:一回上げたものは落とせないですよね。

村本:だから、ビーガンの人はすごいなと思って。昔を知っている人間は、「昔はこうだったんだよ」と自分が知ってるから、絶対に戻れないわけではないかもしれないけれど、若い人はそもそも知らないから、どっちの方に向かっていくのかわからないし。

幡野:やっぱり大多数の「普通の人たち」にとっては、現代社会が持つ利便性を捨てるのって難しいですよね。だからこそ、そういうシステムに対する「疑念」とか、それとは違う視点をうまく情報発信して、少しずつでも広めていくしかない。広めるってことは大切ですよね。広めて「味方を増やすこと」が将来への可能性に繋がっていくわけだから。

 

取材・文/川喜田研  撮影/藤澤由加

第4回 「いかに生きるか」は「いかに死ぬか」。安楽死を考える は4月12日に配信の予定です。

幡野さんのはじめての写真集。「Nikon Juna21」を受賞した「海上遺跡」ほか、「狩猟」「家族」をテーマに撮影した3作品を収録。

 

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ウーマンラッシュアワー村本の「考える人」

お笑い芸人・ウーマンラッシュアワーの村本大輔氏が、毎回、有名・無名のゲストを迎えて、政治・経済、思想・哲学、愛、人生の怒り・悲しみ・幸せ・悩み…いろいろなことを「なんでそんなことになってるの?」「変えるためにはどうしたらいいの?」とひたすら考えまくる連載。

プロフィール

幡野広志×村本大輔

幡野広志

1983年、東京生まれ。2004年、日本写真芸術専門学校中退。2010年から広告写真家・高崎勉氏に師事、「海上遺跡」で「Nikon Juna21」受賞。2011年、独立し結婚する。2012年、エプソンフォトグランプリ入賞。2016年に長男が誕生。2017年多発性骨髄腫を発病し、現在に至る。著書『ぼくが子どものころ、ほしかった親になる。』(PHP研究所)。作品集『写真集』(ほぼ日)。

村本大輔

1980年、福井県おおい町生まれ。小浜水産高校中退後、NSC入学、2000年デビュー。2008年に中川パラダイスとウーマンラッシュアワーを結成。2013年、THE MANZAI 優勝。昨年末のTHE MANZAI で、原発・沖縄・東京オリンピック・熊本地震などをテーマにしたネタが話題になり、以後、災害被災地や沖縄をはじめ全国で独演会を開催。今年のTHE MANZAIでも政治ネタを取り上げ注目を集めた。

 

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「自分」が見えてくるから、がんになるのも悪くない