『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』(集英社新書)を上梓した佐藤可士和氏と、戦略コンサルタント・山口周氏の特別対談。話題は、クリエティブとビジネスの接点をめぐってさらに深く展開する――。
構成・清野由美 撮影・HAL KUZUYA
いいコンセプトとは、音楽におけるサビである
山口 『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』の中で、博報堂に新卒で入った後、迷いがあった時期のことを書かれていますよね。
佐藤 コンセプトメーキングのところですね。本でも書いた通り、僕は仕事において、「①課題」→「②コンセプト」→「③ソリューション」というプロセスを最大限に重視しています。前回の対談では、最初の「課題」を設定することが実は難しいこと、それゆえに、そこが決定的に大事であることをお話しました。実はそれだけでなく、次に続く「コンセプト」も、すごく大事なのですが、若いころの自分は、いいコンセプトが出せないで非常に苦労したな、と。
山口 「『コンセプト』とは、考え方の方向性のこと」と、本には書かれています。それが出せなかったのは、なぜだったと思われますか。
佐藤 やはり経験という引き出しが、自分の中には圧倒的に不足していました。
山口 僕は戦略コンサルタントとして、イノベーション、組織開発、人材育成の領域に関わっています。コンサルの立場から可士和さんにうかがってみたかったのは、コンセプトの良し悪しを分ける紙一重の差は、果たして事後的に分かるものか、ということです。つまり、良し悪しの判断基準は形式化できるか、ということなのですが。
佐藤 形式化といえば、「①課題」→「②コンセプト」→「③ソリューション」のプロセスが、まさにあてはまるのかもしれませんが、僕の中ではむしろ、コンサルタントの方が使うようなフォーマットは、いったんはずして考えた方がいい、というところがあります。なぜならフォーマットに依存した時点で、「①課題」→「②コンセプト」→「③ソリューション」の大事な順番が、逆になりかねないからなんです。
山口 よくありますね。フォーマットにあてはめること自体が目的となって、ゴールを見失ってしまうことは。
佐藤 要するに、ただフォーマットにあてはめているだけなのに、その作業を追求していくうちに、それがソリューションのように見えてきてしまう。そうなったら、元も子もありません。
山口 可士和さんにとって、いいコンセプトとはどのようなものでしょうか。
佐藤 それこそ金脈のようなもので、ここを掘り当てることができれば、後はいくらでもアイデアを展開していける。そんなイメージが僕の中にはあります。
山口 音楽でいうところのサビですね。すぐれたサビのメロディは、オーケストラで演奏しても、ギター一本で弾いても、どんな時でも人の心を動かします。
佐藤 その通りです。
プロフィール
佐藤可士和(さとう・かしわ)
クリエイティブディレクター。「SAMURAI」代表。1965年東京都生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン科卒業後、博報堂を経て2000年に独立。慶應義塾大学環境情報学部特別招聘教授。多摩美術大学客員教授。ベストセラー『佐藤可士和の超整理術』(日経ビジネス人文庫)など著書多数。2019年4月に集英社新書より、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(慶應SFC)における人気授業をまとめた『世界が変わる「視点」の見つけ方 未踏領域のデザイン戦略』を上梓。
山口周(やまぐち・しゅう)
戦略コンサルタント。専門はイノベーション、組織開発、人材/リーダーシップ育成。1970年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部哲学科卒業。同大学院文学研究科修士課程修了。電通、ボストン・コンサルティング・グループ、コーンフェリーなどを経て、現在はフリーランス。著書に『武器になる哲学』(KADOKAWA)、『世界の「エリート」はなぜ「美意識」を鍛えるのか?』『劣化するオッサン社会の処方箋』『仕事選びのアートとサイエンス 不確実な時代の天職探し』(以上、光文社新書)など。