──経済のグローバル化が進む現代、米国のスーパーマーケット・チェーン「ウォルマート」の2017年の売り上げは5003億4300万ドル(約55兆377億円)で、同年の世界各国のGDPランキングに当てはめると、24位・ポーランドの下、25位・ベルギーよりも上という位置づけです。EUの中堅国に匹敵する経済力を持っているわけで、持っていないのは軍事力だけと言ってもいい状況です。
グローバル経済、恐るべし……ではありますが、今作『テンプル騎士団』を読むとウォルマートも可愛いものに見えてきます。テンプル騎士団とは、もともと12世紀初頭にキリスト教徒の巡礼保護を目的として始まりました。その後、テンプル騎士団はヨーロッパ各国の王室にも融資するほどの経済力を持ち、さらに最精鋭の軍事力も備え、ヨーロッパ全土に支部を構えていく。つまり、中世最大・最強の存在となります。
佐藤さんは小説家ですが、今作では史実を忠実に追いながらテンプル騎士団成立の背景から消滅までの過程が描かれています。しかし、それを読んでもなお、現代のグローバル企業よりも強大な組織が、交通も通信も発達していない中世に存在していたというのは不思議な気がして、どこか夢すら感じさせる存在です。
佐藤 テンプル騎士団というのは、たしかにロマンを感じさせる魅力があります。彼らは1307年、フランスの国王・フィリップ4世によって滅ぼされるわけですが、その後の彼らがどうなったか。本書のなかでも触れていますが、テンプル騎士団の残党が現在のフリー・メイソンを組織したとする説をはじめ、彼らの“その後”を語る人たちはあとを絶ちません。まさに、彼らが夢を感じさせる存在だからです。また、映画『スター・ウォーズ』シリーズに登場する「ジェダイ騎士団」も、なぜ騎士団なのか。テンプル騎士団を意識しているとしか考えられません。
そもそも、私が今回の『テンプル騎士団』を書いたのも、彼らの存在に何か“引っかかるもの”を感じていたからです。大学院でフランス史を専攻したので、もちろん彼らの存在は知っていましたが、単に歴史の一部分として片づけるにはいかない“引っかかり”があったのです。
まず、彼らの姿を描いたイラストを見ると、大きく十字架を記した装束に身を包んでいる。「なぜ、騎士団が十字架なのか?」。そう思って、さらに調べると、彼らが騎士修道会であることがわかった。しかし、そうなると「なぜ、国王が修道会を滅ぼさなければならなかったのか?」という新たな謎が浮かび上がってきて。気がつくと、テンプル騎士団について文献を調べ上げ、フランスにまで行って彼らの足跡を追うほどのめり込んでしまったわけです。