プラスインタビュー

異例のヒット続出! なぜ東海テレビのドキュメンタリー映画は、何度も観たくなってしまうのか?

東海テレビ・プロデューサー 阿武野勝彦氏インタビュー
阿武野勝彦

 それは、ちょっと違います。取材に入れない場所だったけど、実際に入ってみたら、動きがなくって、面白くない。裁判官の日常は、パソコンを打ったり、新聞を見たり……。で、ほかには? と思ったら、裁判長が、毎日2つのお弁当を持参していた。そこに注目してみたんです。最初に「裁判所がおかしいんじゃないの」と言って取材に入ったけれど、「おかしい」を取材で集めるのではなく、実際の取材は、裸眼で見るべきなんです。「裁判官はどんな気持ちで仕事をしているの?」とか「裁判の下され方は、どんな風か?」とか。で、「弁当2つ」は、裁判官の過重労働のある種の象徴のように見えてきた、というわけです。こういうスタイルで企画を進めていくと、自分たちの視野を大きく広げていくことができます。スタッフには、「タブーはないぞ。とにかくどこへでも行ってみよう」「向こうはノーと言うかもしれないけど、こっちが初めからノーと思う必要はない」と言っています。

『光と影~光市母子殺害事件 弁護団の300日~』(ディレクター・齊藤潤一/2008年放送)     (C)東海テレビ放送

 この考え方は、もう一つの視界を開きました。「いくら世の中から叩かれていようと、その渦中にいる人たちがどんな気持ちで、今どういう状態に置かれているのか」を撮るということです。光市母子殺害事件のときに「鬼畜弁護団」などと激しいバッシングを受けていた被告弁護団側に入って、『光と影』(08年)という番組を作りました。その後、弁護団に取材の申し込みがたくさんあったかどうか聞いたんですが、驚いたことに、他局からは一件も取材依頼がなかったそうです。

手を挙げた人がディレクターになれる

──今、東海テレビの中でドキュメンタリー専属は阿武野さんだけ?

そうですね。報道局には、ドキュメンタリーの専属は、僕一人です。報道局はニュースを主に担当している部署で、いわば大部屋です。一時期は「ドキュメンタリー専従班」みたいにしたらどうだという時期もあったのですが、それよりも報道でニュース取材しながら日々外に出ている間に「これをやってみたい」と拾ってきたものをドキュメンタリーにした方がいいと思ったので、専従の部署になっていません。ですから、企画さえあれば、手を挙げた人間が誰でもディレクターになれる。その方がいい作品ができるような気がします。

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プロフィール

阿武野勝彦

東海テレビ放送ゼネラルプロデューサー。1959年静岡県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻進学。1981年東海テレビ放送にアナウンサーとして入社。89年記者に異動。98年営業に異動。2002年報道制作局部長に。日本記者クラブ賞(09年)、芸術選奨文部科学大臣賞(12年)などを受賞。

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