プラスインタビュー

異例のヒット続出! なぜ東海テレビのドキュメンタリー映画は、何度も観たくなってしまうのか?

東海テレビ・プロデューサー 阿武野勝彦氏インタビュー
阿武野勝彦

そうですね。DVD化の要望は、たくさんいただきます。ただ、映画に育ててもらっていますので、映画館と映画人への思いがあります。「東海テレビのドキュメンタリーが見たいけど、DVDにならないしネットでも流れないし、ならば、映画館に行くしかないな」と、単館の映画館に足を運んでもらうというのが、僕にとっては大事なことの一つなんです。僕は、もともとテレビが好きで好きでしょうがないんだけど、テレビがダメになっていくというか、ドキュメンタリーをいくら作っても全国ネットにならないもどかしさがあって、何か方法はないかと思ってきました。その延長上で「映画にしてみるといいんじゃないか」と思ったんです。

 テレビは、どんどんパーソナルなもの、一人で見るものになってきてますね。でも自分の原風景は、やっぱり家族で見るものでした。たとえば突然キスシーンになると、お父さんが「あ~、お茶、お茶!」と言ったり、お母さんが何か急にあたふたしたり、お兄ちゃんが「えへへ」と変な声出したり。まわりの人の反応が面白く、テレビをみんなで観るという意味があったんです。映画館という空間も、隣にいる人が「ここでため息ついた」とか「ここで笑うんだ?」とかがありますよね。そういうものを含めて僕たちのドキュメンタリーを共有してもらう場としての映画館の大事さを知りました。映画にすると何度でも上映することができる。映画にしたドキュメンタリーが、もう1回テレビに戻ってくるというループを夢見ているんです」

阿武野勝彦氏

無駄なるものの豊潤さ

──東海テレビのドキュメンタリーは、取材の時間軸が非常に長くて厚みを感じますね。過去に報道で流したニュースを使えたり、何年も長期密着したりということもあるでしょうが、もともと相当、取材テープを撮っていらっしゃるんですね。

ええ。今、テレビは相当に経営が厳しくなってきているので、合理的に取材をしないといけない時代に入りました。でも僕は「ドキュメンタリーは合理的には撮れない」と思っています。合理的に撮ろうとすると、イベントがある日を撮りに行く。それをつないだものを、ドキュメンタリーと呼ぶようになってしまう。他局では、企画書通りに撮らなきゃ怒られるところもあるようですが、現実が頭の中で書いた企画書のように進んで何が面白いのか、と思ってしまう。豊かな映像表現とは何か、という根本問題です。「みんなが合理的な方向に進むのならば、まったく逆に、無駄なるものの豊潤さを求めていこうよ」「みんながしない長期取材で何かを描き出せばいいんじゃないの」と。つい「なるべく合理的に取材してよ」と思うことは思うんですが、あえて「人には無駄に思えても、時間をたっぷり使って作ろうよ」と。そうすると、不思議なもので、途切れずにいいものができてくる。今のところはね(笑)」

_______________________________

『さよならテレビ』(監督・圡方宏史/2020年1月公開) (C)東海テレビ放送

2020年1月2日

ポレポレ東中野(東京) 名古屋シネマテーク(愛知)ほか全国順次ロードショー

マスメディアの頂点として「君臨」してきたテレビが、「マスゴミ」と揶揄される現在。今、テレビ局内部では何が起こっているのだろうか? そこで『ヤクザと憲法』の取材クルーが、自社の報道部にカメラを入れた。本作は、当初、東海地方限定で放送された番組に新たなシーンを加えて映画化したもの。その番組は放送直後から大反響を呼び、録画したDVDが「まるで密造酒のように全国の映像制作者に出回った」そう。

「さよならテレビ」、そのタイトルの意味するところとは――?

公式サイト:sayonara-tv.jp

 

 

 

取材・文/稲垣收 撮影/幸田大地

1 2 3 4 5 6

プロフィール

阿武野勝彦

東海テレビ放送ゼネラルプロデューサー。1959年静岡県生まれ。同志社大学文学部社会学科新聞学専攻進学。1981年東海テレビ放送にアナウンサーとして入社。89年記者に異動。98年営業に異動。2002年報道制作局部長に。日本記者クラブ賞(09年)、芸術選奨文部科学大臣賞(12年)などを受賞。

集英社新書公式Twitter 集英社新書Youtube公式チャンネル
プラスをSNSでも
Twitter, Youtube

異例のヒット続出! なぜ東海テレビのドキュメンタリー映画は、何度も観たくなってしまうのか?